降のトスカーナの諸聖人には,むしろ同時代に氾濫し始めた木彫楳刑像や祭壇画板絵に対する真撃な祈祷礼拝から,奇蹟を見出す傾向が顕著であろう。その著名な例を挙げておく。に生地サン・ダミアーノ聖堂のキリストの十字架像板絵(12世紀後半ウンブリア派絵画,現アッシジ,サンタ・キアラ聖堂)に祈りを捧げた際,キリスト像が彼に聖堂の再建を命じる声を聞く〔図l〕。グレッチョにおけるプレセルピオ礼拝のミサ(1223)では,幼児イエスの人形が声をあげ,フランチェスコがこれを抱きあやす様子が会衆により目撃された。② 聖トマス・アクイナス(1225頃74,ドメニコ会土):ナポリにて礁刑像に祈りを捧げた際,キリスト像が彼の執筆研究を励まして「私についてよく書くように」と呼びかける声を聞く〔図2〕。③ ヴイテルボの聖女ローザ(1235?52,フランチェスコ会第三会信女):楳刑のキリストを幻ネ見。地サン・フランチェスコ聖堂の木彫楳刑像(13世紀末,現コルトーナ,サンタ・マルゲリータ聖堂)〔図3〕が生身に変じて彼女の祈りに応えた。礁刑像のキリストと会話を交すことで民衆の崇敬を集めた(注12)。祈祷眠想のうちに十字架を担うキリストを幻視,さらに聖母に抱かれた幼児イエスの花嫁となる体験を得る。リストが彼女に語りかけ慰めた[図4〕。また同名の伝承聖女,アレキサンドリアの聖カタリナ(注13)と同じ「神秘の結婚」として指輪を与えられるーーを体験した。少女時代より数々の幻視があり,そこに現れた聖母子や諸聖人の姿は,彼女が「まさに聖堂内に描かれたのを見ていたのとまったく同才芸」であったという。彼ら,フランチェスコ会(1215頃公認一)とドメニコ会(1216−)の聖人福者の奇蹟① アッシジの聖フランチェスコ(11821226,フランチェスコ会創始者):青年時④ コルトーナの聖女マルゲリータ(1247-97,フランチェスコ会第三会信女):生⑤ モンテフアルコの福女キアラ(1268頃−1308,フランチェスコ会第三会信女):⑥ シエナの聖女カテリーナ(1347頃−80,ドメニコ会第三会修道女):楳刑像のキ聖母子にまみえ,幼児イエスの花嫁691
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