鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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②奇文晃の研究招致研究者:ベルリン国立東洋美術館学芸員報告者:慶麿義塾大学文学部教授河合正朝期間:1999年11月8日〜12月10日招致外国人研究者,トリン・カーン(鄭卿)さんは,ヨーロッパ,とりわけドイツやスイスなどで主たる研究活躍を行う比較的年齢の若い研究者である。かつて東京大学に留学の経験があり,河野元昭教授の指導を受け,また小林忠学習院大学教授からも指導を受けると共に近年は同教授との共同調査研究を行っている。トリン氏の来日の目的の一つには,氏が現在取り組んでいる谷文晃研究のための調査や資料収集に対して,われわれが支援し助言を与えることも含まれるが,その重点はむしろ,日本の若い研究者と研究上の交流に置かれたといえる。すなわち,平成11年12月7日に慶鷹義塾大学三田校舎で,「江戸時代後期のく真景図〉考察一一ー谷文晃を中心に一一一」と題して行われたトリン氏の講演会には,文人画を研究する若い年代層の研究者をはじめ,東京大学,学習院大学,早稲田大学,慶麿義塾大学ほか大学院生の多くの参加があり(出席者56名),日本における「真景図」の解釈についての刺激的かつ活発な議論が交わされたことは,その実を上げた大きな成果としてここに特記されよう。以下に講演の要旨を記して報告としたい。なお,トリン氏はドイツに帰国後,谷文晃に関する研究をまとめ,チューリヒ大学に博士学位請求論文として提出した旨の通知があったことを付記する。〈発表要旨〉日本における「真景図」という風景表現の一つの領域は,江戸時代後期18世紀後半から派生し,19世紀までの聞に限定されると考える。荊浩の「筆法記jに初出する「真景jという語は,実際にある景観の描写だけでなく,自然の本質をも示すことを意味する。この概念は,風景描写の際,外形の類似性の達成より,対象の内在的な真実の把握の方が画家にとって重要な目的になるという,いわば「真景主義Jと呼ぶべき理論の基になっている。このような理論に接触したと考えられる18世紀の日本人の文人画家たちは,「真景」の語は中国画論の「真景主義」から借用するが,この概念を自国の景観を描くことにトリン・カーン氏(Tri曲KHANH)-724-

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