鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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[VI]目的3訪問先における友好関係について将来に企画展などを想定し,調査を進行,資料を収集するためには特に重要であり,例え,調査の日程が長ヲ|いても3は切り捨てられない項目であった。ヴァチカン伝道博物館では,訪問初日に,所蔵漆工芸品の保存,応急処置に協力が求められた。劣化が進行し剥落断片が落下し続ける堆朱衝立を応急に収納する必要があった。これに対処する係員への指導を要請されたので,調査時間を割いて協力した。このことは,その後に,写真資料の許可を渋る上部へ対し,現場の館長や担当者から大変に好意的な仲介の労を頂く結果となった。当地では日本美術工芸分野の専門家が常勤でないケースが多い。専門家ではない担当者はインヴエンタリ一作成のためには,若い研究者などを契約勤務させ,西洋美術品専門の修復技術者に日本美術品の保存収納などを任せている。資料の提供,一緒に作業する時間を調査中に作ることなど協力が大切である。例えば,簡単なデータを提供する。漢字の判読や和暦から西暦年代換算など困難である場合も少なくないので,走り書きで記入などして必要資料を渡すようにする,また,日の当たるところや風の当たるところに漆芸品を置かないように移動場所を一緒に探すとか,布で包むように指導するとかである。日本ではあたりまえの材料でも当地では入手困難な材料も多くある。また例え,当地で入手可能である材料でも会計業務の難しさなどから,すぐには入手が困難な場合も多いから,現場で可能な範囲で,簡単な取り扱い,保存の知恵、を提供する。特に,各美術館ですでに手持ちの材料を利用して,応急収納などの助言をするという対応が相互の理解のために大切である。各現場で気が付く限りでの協力をそれとなくするようなきめの細かい協力が歓迎される。[四]調査範囲が非常に広かったので,結果的に入手資料は相当な量となった。しかし,現在請求中である資料,継続調査や検討を必要とする資料も,未だ少なくない。紙面や期限制限もあるので現段階で訪問先の中から主なコレクションを選ぴ,簡単に概要を述べたいと思う。1.ミラノ市立スフォルツァ城応用美術館:考古品を除き,絵画,武具,工芸,家具類とほぼ全分野にわたるコレクション。収蔵品の制作時代は,幕末から明治,大正時代。どちらかと言えば明治十年以後が大半を占める。後述する(4)イヴレアガルダコレクションが明治10年以前であるのに対し,その後の年代に続く明治以後のも一731-

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