鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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のが中心となっている。最も初期のコレクションは1861年,発端はミラノ市立図案技芸専門学校の学生を養成するための教材資料収集であった。後に,60〜70年代流行した世界博物陳列館という方向がとられて,現在の展示に至る。総数約5000点。30人以上のコレクターによる寄せ集めで,コレクションの核となる重要な数名のコレクターは,jレチーニパッサラックア,モランド伯,プイーニなどである。注目に値するのは,金工,七宝,陶磁器,漆芸品など工芸品分野にある。①初音意匠料紙箱(漆工芸品):収蔵番号Giappone758,縦42.5×横34.9×高さ14.3cm ルチーニパッサラックア(LuciniPassalacqua)コレクション,三代将軍徳川家光長女千代姫婚礼調度で江戸蒔絵の基準となる国宝初音調度と意匠及び技法を同じくする。質的にも非常に高い作品で,同調度の連れであるか,明治期の写しであるかと議論の対象になった。江戸時代から受け継がれた最高の蒔絵技法を持つ明治初期の工人の作であろうとする見方が現在は強い。保存状態について述べれば,固有の収納桐箱や布被いなど無しで,長年ガラス張り棚に所蔵されていたため光糠や挨によって漆表面の艶が失われ,一部の象献の剥落,身部分に割れ目,蓋に歪みなど劣化が進行しているものの下地などの技術的な堅牢さによって総体が維持されている。(漆工史19号拙稿新資料紹介「初音意匠料紙箱」1996年)モランド伯(ConteMorando)コレクション,三頭の唐獅子が大きな球体を支える。球体の上部分は,母子唐獅子の乗る蓋になる。やはり唐獅子形の両耳が付く。本体球形には,薄肉浮彫の装飾円文内に,龍,蝦麟,亀,鳳風文が円周に繰り返され,周囲を雲文,雷文,鱗文など伝統装飾文が囲み,全体を被う。すっきりと新時代風にアレンジされた意匠で,ヨーロッパのサロン用に輸出された上質の置物。底面に鋳名「東京住鈴木政義造」。高さ37cm蒔絵漆塗台付。その他,一連の明治期七宝コレクション査類,皿類,灯篭形置物などや金工品は奇抜な形や意匠など魅力ある輸出工芸品が所蔵される。この明治期七宝類は,コレクションする側の曙好の相違からアメリカでは好まれなかった不透明,泥七宝類で,ヨーロッパに所蔵する資料として重要で、輸出工芸品の空白を埋めるー資料となる。吉村元雄先生,名古屋市博物館小川幹雄氏などの七宝調査グループ訪問(1999年② 鋳銅大置物:収蔵番号Cina778,直径80×高さ63cm732

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