画家たちはさまざまに異なるタイプを次々と試みることによって,両者のつながりを描き出そうとしたのである。以下に,シンボルを描いた西方の写本挿絵四例をとりあげ,それらがどのような表現によって,何を見る者に伝えているか,検討してみたい。第一の作例は,一般に「ヴイヴィアンの聖書」と呼ばれる,パリ国立図書館所蔵の聖書写本で,845/6年トウールにおいて制作された(Paris,B. N., lat. 1, fo1. 329v) 〔図1J (注8)。この全頁挿絵は,マイエスタス・ドミニを中心に据え,キリストの周囲を預言者とシンボルが囲んで、いる。縦長の菱形枠がキリストを囲み,さらにその外側で,長方形の枠が菱形を囲む。四つのシンボルは菱形の四隅に,四人の福音書記者は長方形の四隅にそれぞれ配置されている。二つの図形によるフレームは,一つの平面上に二つの異なる視点を組み合わせるための工夫であるように思われる。いいかえれば,四福音書記者は地上に坐り(足元に草が生えている),上(あるいは下)を向いて空高く浮かぶキリストとシンボルとを見つめている。すなわち,地上から眺めたところの空が,菱形の内側に描かれている。菱形の外側は逆に,空から見た地上の福音書記者を描いている。このように,三つの異なる空間(空から見下ろす地上,地上から見上げる天上)が,二つの図形を重ね合わせることによって,見事に一つに合成されているのである。画面の上半分を空に,下半分を地上に分ける単純な構図では,キリストは上半分に押し込まれ,画面中央を大きく占めることができない。そこで二視点を一つに重ねる特別の構図が生み出されたと考えられる。この画面中では,キリストを囲む天上のシンボルは,菱形の太い枠によって,地上の福音書記者から切り離されている。両者はこのように,異なる領域に住まう異なる存在として,明確に区別されているのである。第二の作例は,エクスター大聖堂の福音書写本で,1088年頃の制作とされ,現在パリ国立図書館に所蔵されている(Paris,B. N., lat. 14782, fo1. 16v) C図2J (注9)。シンボルは画面上端に描かれ,福音書記者と同じ空間内に位置している。つまりここでは,Iヴイヴイアン聖書Jのように両者が太い枠によって切り離されているわけではない。しかしながら,シンボルは福音書記者の方をまったく向いてない。マタイはシンボルに背を向け,一方シンボルは上下逆さまに描かれ,あたかもマタイの背中に向かつて飛び込んで、行くかのように見える。ここでは,構図中に異なる大きさのこつの円が用いられ,シンボルと福音書記者とが別々の弧の上に位置しているように見える。それはあたかも,二つの滑車が互いに反対方向に回っているかのようである。二4
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