ず,したがって完全に合体しているわけではないという点である。図像は,福音書が書かれる時,天上のシンボルが地上へと降り立ち,シンボルの力を借りて地上の福音書記者が上方へと押し上げられることを示しているように思われる。最後に取り上げる作例は,スペイン,レオン大聖堂所蔵の聖書写本で,920年の制作とされる(L巴on,Biblioteca de la Catedral, cod. 6, fo1. 211r) [図4J (注12)。ルカはそのシンボルを肩の上に背負っており,本来シンボルに属するものであるところの翼が,ここではルカの腕につけられている。こうして,人間の身体と動物の形は完全に合体させられた。ここでは,人間らしい(あるいは動物らしい)自然な描写は,ほとんど残されていない。すべては平面化され,さらに線化されている。層状の線が幾重にも重ねられ,人と動物とを障措なく合体させている。線化されたところの人物と動物の合成像は,しばしば人の形を模して形成されるイニシャル,あるいはモノグラムを想起させる。事実,ななめ上に向かつてのばされたルカの両腕と,ななめ下にむかつて広げられた彼の翼は,アルファベットのXをかたどるものであるように思われる。さらに,膨張した牛の胴体と,棒のようなルカの身体のコンビネーションは,pとみなすことができるのではないだろうか。福音書記者とシンボルの組み合わせは,ギリシア・アルファベットのXPの組み合わせ,すなわちキリストのシンボルに基づいているのである。牛が福音書記者をシンボライズする一方,福音書記者と牛の組み合わせは,キリスト自身をシンボライズしている。福音書記者とシンボルは,円の中におさめられている。この円は,キリストをしばしば取り囲むマンドルラを思わせる。たとえば「キリストの変容jの図像において,キリストのマンドルラはしばしば幾重にも光線を放って描かれる。この福音書記者もまた,円の中にあって光に包まれているかのように見える。異なる色の細い帯を層状に重ねて構成される人体は,虹の帝のようにも見え,あたかもそこを光が貫いているかのように思われる。いいかえれば,ルカの身体は光によって形成された身体であり,それはもはや地上に属する身体ではない。福音書記者はシンボルと合体させられるのみならず,キリストのモノグラムをかたどることによって,キリストともひとつにされているのである。こうして地上の人は天上の人へと変容させられた。これまで検討してきた西方の福音書記者とシンボルの図像は,それぞれ異なるユニークな表現によって,記者とシンボルとの関係を視覚化している。第一の例が異なる二つの図形によって両者を別の領域に住まうものとして明確に切り離しているのに6
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