鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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ョjと工場書簡に記述される大画面作品で,対の作品を持たないものを取り上げ,構(1) <ベンタ・ヌエパの喧嘩}C図1) (2) <盲目のギター弾き}C図2) 図の変化を追う。〈ベンタ・ヌエパの喧嘩〉は1777年にエル・パルド宮の食堂のために描かれた第二の連作中最大の大画面作品である(注11)。通常王宮において食堂は横に長い形の部屋である。その窓のない側の壁面に用意されたのがこの作品であり,内容的に室内において最も支配的な意味を持つ作品となる。〈ベンタ・ヌエパの喧嘩〉は,旅龍の外でのカードゲームのいかさまをきっかけとして,7人の男達が喧嘩をする場面を描写している。画面中央の5人組を中心とした中景は,まるで舞台照明を浴びた役者達のようであり,中景の群像の背後に置かれた舞台の小道具類は観者に側面を見せ,中心群像の乗る舞台があたかも背景よりも少し高い位置にあるかのように遠景から中景に登ってくる人々が淡い色調で描かれる。横長の寸法のタビスリーにおいて,芝居の一場面のように主要人物を中景に置き,近景に植え込み,遠景に何層かの段階をつけて木々や家の書き割りを並べ,最も遠い背景に光に満ちた山々の景色を描くやり方は,他作家も描く定番の方法である。タピスリーにおける遠近感は,側面を見せる小道具を色調とす法で変化をつけながら,中景から遠景へ何層にも重ねるやり方で獲得されるものであり,ゴヤも初めての横長の大画面作品〈ベンタ・ヌエパの喧嘩〉においてはこの方法を採用している。〈盲目のギター弾き〉は,1778年にエル・パルド宮の皇太子夫妻の寝室のために用意された第三の連作の内のl点であるが,装飾位置の変更を命じられ,幅を少々削って寝室控えの聞に予定された作品である(注12)0<ベンタ・ヌエパの喧嘩〉と同様に,ゴヤはこの作品にタピスリーの先例に従った構図を適応した。12人から成るピラミッド状の群像が構図を支配する。中心の群像があたかも周りに比べて小高い位置にいるかのように,群像を乗せた舞台は盛り上がっている。大画面タピスリーに特徴的な構図は楕円形,ピラミッド型の二種類だが,楕円形の構図を得意としたラモン・パイェウに比べ,ゴヤはピラミッド型の構図を選んでいる場合が多い。群像の扱いは,ゴヤの前連作の〈凧揚げ〉に酷似するが,群像の左右に描かれた中景から遠景にかけての処理が左右で異なっている点にゴヤの遠近表現の進展が見られる。左手は〈ベンタ・ヌエパの喧嘩〉の場合と同様,木々や釣り人の描写が書き割りのように重ねられるが,-179-

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