鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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(3) {ペロータ競技>c図3)(4) {夏>({収穫>)c図4) (5) {サン・イシドロの牧場>c図5) 右手には透視図法の道がある。この作品は1779年に〈盲目のギター弾き〉の当初の装飾場所のために描かれた寝室の聞の連作中最大のす法の作品である(注13)。ボール遊びを主題とした横長の大画面タピスリーの先例は幾つかあり,どの作品も画面の左右に競技者が並び,画面中央のやや奥に競技を見る群衆が並ぶという方法で描かれている。しかしゴヤの方法は従来のやり方とは明らかに異なる。対面する競技者のペアは,ネットを挟んで斜めに奥と手前に配置されている。小さく描かれた右奥の競技者と大きく描かれた左手前の競技者の寸法から,この作品におけるゴヤの狙いが遠近感であることが解る。左から右へ向かう奥行きを補強するように近景には斜めに塀が描かれ,通常観衆の描写で埋められる画面中央に近景の塀に座る男が描かれている。近景の最も目立つ部分に斜線で織らねばならない物体を描くゴヤのこの方法は,タビスリーの構図としては新しい。同年に描かれた〈瀬戸物売り〉においても斜めの動操を意識した構図が用いられている。この作品は,7年間の休止期間を経て,1787年にエル・パルド宮の食堂のために描かれた四季を主題とした連作の内の1点である(注14)。舞台にピラミッド状の群像が描かれる方法は〈盲目のギター弾き〉への回帰と一見思えるが,中心のピラミッドは小さく,ピラミッドを中心に四隅に放射する斜めの線が意識的に左手の建物と地面,右手の建築的構造を持つ藁束の線で表現されている(画面がX字で構成され,その中心にピラミッド状の群像があるという構図)。左右の建築的構造の線はピラミッドの後ろの一点に集まる。ゴヤは,タピスリーの描き方に則った芝居の一場面のような扱いやピラミッド型の中心群像を配置しながら,タピスリーの遠近表現にはない油彩鑑賞画の方法を用いている。〈サン・イシドロの牧場〉は,1788年に依頼された第五の連作,エル・パルド富の王女達の寝室のための連作中の1点だが,描写がタピスリーに織るには不向きとされ,カルトン化されなかった(注15)。マドリードの守護聖人であるサン・イシドロの祭りを描いたこの作品には,カサ・デ・カンポからのマドリード市の眺望が当時の景色に忠実に描かれており,作品の主役は人々ではなく風景である。横長の画面をマンサナーレス河で二分し,上部に風景,下部に人々の様子が描かれている。川の流れは画180

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