鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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(K創nBidah) J (注2)と呼ばれている」としている。カインとは,インドネシア語でまた,吉本氏は1996年に企画した展覧会「イカットJの図録(1996年,平凡社刊)では,Iパスマでつくられてきたカイン・ピダ(kainbidak)と呼ばれる絹の緯緋」として図版62-64の3点を紹介している。東南アジア染織の研究の第一人者である,ロビン・マクスウェル(RobynMaxwell) 氏は主著Textilesof Southeast Asia Tradition, Trade, Tra叫formation(1990, Oxford University Press, Australian National Gallery)で,パスマ地方の絹織物2点(作品番号176,239)の現地名称、をIkainbidak (?) Jとして紹介している。ピダという布について,写真付きで産地と現地名称を(一部留保付きであるにしても)明記しているこれらの文献から,割り出されるピダ像とはどういったものであろうか。その共通した特徴を以下に列挙する。l 二枚の布を耳ではぎ合わせて一枚の大判の布とする経約2m緯約1m (耳から耳までの幅はその半分)が標準的な大きさである2 基調色は明るい赤茶色で,材質は絹または木綿と絹の併用である3 緯緋や緯紋織,緯縞などの技法で加飾されている4 上記技法による幾何学模様が緯糸方向に帯状に配置されている以上5点が共通点として挙げられる。ピダは横縞(腰衣として身に付けた場合,縦縞に見える)という,染織としてはもっともプリミテイブな文様を主文様としている。また,基調色も赤茶色と,非常に地味な色合である。しかし,一見単純な縞模様の帯の中には,緋や紋織,時には綴織で細かな文様が織りだされている。また,赤茶の色調も微妙なグラデーションをみせる。絹という高級な素材が使われていることや,金糸銀糸の紋織が加えられることも多いことを鑑みると,高い地位の人聞が身に付けたものであることがわかる。インドネシアの布は,インドの最高級の経緯緋であるパトラの影響を受けて,中央部に萄江文様のような総柄の幾何学文様を配するものが多い。しかし横縞を主とするピダは,それらからー棋を画したものであり,独自の社会的意味を担っていたと推測される。さて,以上のような特色をもっ布が,通常ピダと呼ばれる布であるが,前述の1999織J(作品番号201)を「パスマ地方ラハト(Lahat)で作られたもので,Iカイン・ピダI(身にまとう)布」を意味する。5 両終端には,上記技法や綴織などで,特別な文様が加えられている198

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