鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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4.本研究調査蔓茶羅とその系統分類が認められる。現図系の最後の「逸脱系」とは,筆者が仮に使用している用語であるが,江戸時代の常塔(? ~ 1777)の『正伝現図量茶羅印行記』に,以下のように言及される「町版」にあたるものと考えられる。「また町版なる者は,殊に誤失多し。冠中五仏を六仏と為し,四波羅蜜を胎の四仏に為し,降三世尊を菩薩形に為し,供養会の賢劫の十六尊を悉く智拳印に作し,五色界道,全く之を省略す。尊容持物印像等,正図に違う者,両部を通計する凡そ三百尊に及べりJ(注1) 要するに,一般に広く普及したが,残念ながら現図の正系や変更系のような教学的,図像史的検討を欠いたので,金剛界是茶羅成身会の中央大日輪の四波羅蜜菩薩を胎蔵界蔓茶羅の四方四仏にあてるなど勝手な表現が無数に見られるグループである。今回の助成研究で直接調査した両界蔓茶羅図は,次のようである。このほかにも,徳島・極楽寺,高知・国分寺,福岡・東長寺,熊本・願成寺などの両界長茶羅図も実見したり,写真資料を検討する機会を得たが,中には鎌倉時代・南北朝時代に遡る優品もあるので,別に報告する機会を得たい。次に先の分類を念頭に置いた上で,今回調査した各本を項目別に分類すると,次のようである。(1)京都・東寺蔵(2)大阪・久修園院蔵(3)山口・満願寺蔵(4)千葉・袖ヶ浦市郷土博物館蔵絹本著色両界蔓茶羅図(5)福岡・金剛千手寺蔵(6) 兵庫・寿福寺蔵(7) 富山・千手寺蔵(8) 兵庫・周辺寺蔵(9) 兵庫・常楽寺蔵(10) 京都・随心院蔵。1)埼玉・三峰山博物館蔵つリ絹本著色両界蔓茶羅図(元禄本・重文)紙本著色両界蔓茶羅図絹本著色両界憂茶羅図絹本著色両界長茶羅図絹本著色両界蔓茶羅図絹本著色両界受茶羅図絹本著色両界蔓奈羅図絹本著色両界蔓茶羅図絹本著色両界呈茶羅図絹本著色両界量茶羅図

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