鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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l.現図系b.変更系c.逸脱系2.非現図系b.浄厳系今回は調査対象から外した浄厳系金剛界蔓茶羅は,別に論じるとして,他の四系統の両界長茶羅の図像の具体的内容とその意義を要約して報告したい。1 -a.現図正系両界蔓茶羅図以前に東寺に伝存する両界蔓茶羅にも,厳密にいえば,二種のグループがあることを報告したことがある(注2)。従来,東寺の両界量茶羅群の中で図像的に特異な位置を占める西院本(伝真言院本)両界呈茶羅図については,そのアクセントのある異国的な表現に加えて,明らかに図像的系統の違いが看取される。たとえば,中台八葉院の西南隅に位置する文殊菩薩の姿を例にとると,現図正系のものは高い宝冠を着用しているのに対し,西院本の文殊菩薩は,五警の姿を表現した上でベルト状の頭飾を着用している。なお,破損の修復が遅れている乙本(寛恵施入本)両界量茶羅図は,比較個所の図像がまだ復元されていないが,西院本と表現形式が類似しており,両者に代表される現図両界憂茶羅を現図非正系と称している。これに対し,今はなき空海請来原本と弘仁転写本の系統をヲ|いているのが,建久2年(1191)に描かれたとされる建久本(甲本)である。こちらの系統を現図正系と呼ぶことが多い。本調査研究では,東寺の西院本や乙本の系統に属するものはなく,袖ヶ浦市郷土博物館本,三峰山博物館本などいずれも図像的正統性を保っており,元禄本のような意識的改変や,町版系(逸脱系)の憂茶羅に見られる図像の顕著な混乱はほとんど見られない。1 -b .変更系両界蔓茶羅図現図両界長茶羅は,1現図」といわれる以上,東寺を中心とした空海直結の両界蔓奈羅であるはずであった。ところが,円仁・円珍・宗叡という後発の入唐人家の請来や,東密と台密の交流などもあって,細部の図像についていえば,平安後期から鎌倉時代a.正系a.八十一尊系満願寺本,袖ヶ浦市郷土博物館本,千手寺本,三峰山博物館本東寺本,久修園院本随心院本,周辺寺本,常楽寺本金剛千手寺本,寿福寺本(大阪・延命寺などに数点遺存するが,今回は調査せず)214

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