⑮ 明治から大正期にかけての自然主義の変容一一元声会から珊瑚会へ一一研究者:山口大学教育学部助教授菊屋吉生l.はじめに明治30年代以降の日本画の新しい動向を考える上で,この時期の自然主義的な傾向をもった画家たちの活動に注目することは,大変重要なことであるといえる。そうした自然主義的な画風が,程度の差こそあれ,その当時の新しい意識をもった日本画家たちの作品に確実に見出され,初期院展などでめざされた理想主義的,浪漫主義的傾向とともに時代の顕著な特色として拡大していったことはしっかり認識されなければならないだろう。そしてこうした明治後半期の自然主義を,まさに体現した活動を行ったのが明治33年に創立された元声会のメンバーたちであった。この元声会の活動の状況およびその内容については,近年とくに研究が進み,実態が明らかになりつつあるといえる(注1 )。しかしここで問題としたいのは,そうした元声会によって先鞭がつけられたとみられる自然主義的傾向が,その元声会の活動の末期にあたる明治末年や大正初期において大きく変容してしまったことである。そしてその変容そのものが,大正期における新しい日本画の動きをすでに内包したものであったことにとくに注目したいのである。つまり元声会末期の活動は,次代の新しい傾向の日本画へとつながる内容をすでに示していたという点を,ここではとくに強調したいと思う。この元声会の活動を大正期において引き継いだと考えられているのが,大正4年に創立された珊瑚会である。ただ元声会から珊瑚会への人的なつながりや流れは諸書で述べられてはいるものの(注2),その作品や作風などといった内容面でのつながりや流れということになると,ほとんど皆無といっていいほどこれまで言及されたことがない。それはこの珊瑚会の出品作といわれるものの多くが所在不明のままであることや,元声会でなされたように展覧会の目録といった類いのようなものが珊瑚会では出された形跡がないことなどによって,その詳しい内容の検討が困難で、あったためのようだ。ここでは,そうした困難を認識しつつ,あえて当時のドキュメントなどの検討によって,その作品や作風の内容を類推し,珊瑚会の活動のあり様を検討してみたい。そして,この元声会から珊瑚会の流れのなかにみられる自然主義の変容のされ方の実-224-
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