鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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u明治大正文学研究』第4号,昭和25年10月),あるいは小高根太郎「元声会の自然主義運動J(r美術研究』第184号,昭和31年3月)などがあるが,とくに近年,注スがこめられるものもけっこう見受けられる。しかし当の珊瑚会の画家たち自身による,そうした漫画味を本画に積極的に生かすべきだとか(注14),本画と漫画とを画然と分けること自体に疑問を呈す意見(注15)などをみても,かれらの多くは自らの根底にある漫画的傾向を純粋な芸術表現としてもきわめて肯定的にとらえようとしていたことがわかる。さらにここではもう述べる余裕は無いが,この漫画的傾向がかれらの南画的傾向と軌をーにするところがあり,当時の漫画風と新南画との関連のあり方もこれから充分考慮してみる必要があると思う。この珊瑚会の活動については,当時のそれぞれの画家たちの作風の検討も含め,より詳しく考察する機会を近いうちに改めてもちたいと考えている。本年度,東京国立文化財研究所においてこの元声会から珊瑚会への流れに関する研究会も予定されていて,その成果も期待したいと思う。冒頭にも述べたように,元声会の末期の傾向はそのままその後の珊瑚会の活動につながっていったとみるべきであって,その傾向はまさに明治期の自然主義的傾向の大正期における変容とも言えるべきものであった。そしてそのことはけっしてこの珊瑚会に限ったことではなく,大正期の新しい意識をもちながら,さらに新たな様相を創造しようという他の若い日本画家たち(具体的に言えば,東京では行樹杜,赤曜会,巽画会の若手など,京都では密栗会などに参加した画家たち)と共通した側面をもちえていたことも,ここで詳しく述べることはできないがあえて指摘しておきたい。そうした意味からもこの珊瑚会の活動は,大正期の新しい日本画の動向を考える上で,きわめて重要だと考えるのである。(1)戦後まもなくの研究としては河北倫明「明治美術と自然主義元声会の運動」庄司淳一「元声会再考JU宮城県美術館研究紀要J第l号,昭和61年3月)では,元声会の13回にわたる展覧会の詳細な資料も添付しながら,その活動内容を詳しく考察している。こうした研究を受けた上で,拙稿「自然主義から非自然主義へ明治日本画の新様相J(r明治日本画の新情景展図録J山口県立美術館,平成8年12月)では,とくに元声会の後半の活動に着目して論考した。-232-

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