鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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にはしばしば,先祖の肖像が板絵や彫刻,メダイヨンの形で飾られていたという。それと照応するようにして,ゴンザーガ家のアトリウムたるくカメラ・ピクタ〉には,古代ローマ皇帝肖像が象徴的意味での先祖として天井に描かれている。さらにアルベルティがアトリウムに対して与えていた,正義の場としてのパシリカ,神殿とのアナロジーに従うならば,<カメラ・ピクタ〉は信仰と正義に関する君主の理念表明の場として捉えられる。〈カメラ・ピクタ〉のマントヴァ市全体の中での位置(旧市街地区であった北端),サン・ジョルジョ城内での位置(北の主塔最上階)が勘案される時,同聞はアルベルテイ的意味での「都市Jに対するそのミクロコスモス「要塞cittadellaJと見なされるものとなるが,その「君主の宇宙jの中においてルドヴイコ侯は,古代の理想的君主像に模範を求め,正義と信仰を通じて統治する,という自らの君主像を完成させている。古代皇帝肖像を自分の先祖かつ君主の鑑として掲揚することで,侯は,自らの権力の由来を証明し正当化する。三角小間に描かれるアリオン,ヘラクレス,オルフェウス神話場面はすべて死と再生をテーマとし,君主の不死性あるいは死に対する勝利を裏付けている。また「避遁」場面背景に描かれた都市は,当時のローマで見られたいくつかの古代ローマ建造物を含んで、いる。コロセウム,ケステイウスのピラミッド,ティトゥス凱旋門,クラウデイウスの水道橋,ハドリアヌスの墓廟などが任意に引用され配置されたこの空想都市は,マントヴァ一円のゴンザーガ所領を想像上の理想都市ローマと誓験し賞賛することを企図している。〈カメラ・ピクタ〉ではこのように,異教古代に基づく君主称揚の諸技法がふんだんに盛り込まれ,また相互連関的に組み合わされている。こうした研究成果は,異教古代のモチーフとその象徴的意味を重層的に交錯させながら復活させたり,あるいは当時の建築論や人文主義的思考,考古学的晴好によって適宜応用を加えながら新たに装飾スキームを構築するという,そのやり方を問うことから生じてきた(注4)。この小論ではこうした成果に則りながらも,しかし一度,聞いのレベルをずらすことで獲得できる新たな方向性を試してみたいと思う。つまりここでは,いかにして称揚されているか,でなく,何が称揚されているのか,という問いにすり替えてみたい,ということである。異教古代との連関や影響を離れて,その種のレトリックの手法を問わないようにしてみたとき,1何がj称揚されているかという,より根本的な問いかけとともに見えてくるものは,君主の権力の発生とその根拠というトポスである。-280-

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