鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
295/716

る。なぜならプットが棒を持ち,冠を持つからである。広く認められているようにこの棒は,王拐すなわち王権を意味し,冠は王冠を意味している(注15)。ユノとともにいるプット達が,いとも無造作にしかし下にいる者に見せびらかすようにして王権を手にし遊んで、いるが,あの王権はどうしたら手に入るのだろうか。1547年にアンリ2世が即位した際のフランス戴冠式の規則の中にある法的式語,すなわちこの指輪により「王は厳粛に王国との婚姻を結んだJ(注16)という文言を想起せずとも,我々は指輪が「王/国家」聞の結婚のみならずあらゆる種類の結婚(ヴェネツイア総督と海の結婚や現在の個々人の結婚に至るまで)を象徴し完成させるものであることをよく知っている。リング(伊:アネッロ)とは指輪であり同時に輪っかであることを勘案するならば,天井に描かれた円形開口部は,ひょっとしたら君主と国家の結婚を取り結ぶ指輪のアリュージョンであるのかもしれないだろう。君主は,リングを通じて王権と結婚し,国家の君主たる主体を完成させることが出来る。ルドヴイコは,関口部の下に立つことで,いつでも王権との結婚の秘蹟の瞬間を体験し「国家の神秘体Jたる自身の存在証明をすることが出来たのかもしれない。この円形疑似開口部は制作手順上,壁画全体の一番最初に描かれたことが判っている(注17)。従って,途中で多少の改変が加わったとしても,この関口部が最初から最後まで常に装飾プログラムの中核であったことは間違いない。カメラ・ピクタの聞は壁画装飾されたのち,夫婦の寝室として用いられていた時期があると述べた。天井にはベッドを取り囲むカーテンを吊り下げるための金具が残っていた(注18)0I寝室」は当然ながら,一族のダイナスティを実際に支える夫婦の結び付きとしての結婚の場である。しかし同時に,王権法学理論の中には「正義の床J,正義の司法の場としての寝室という比輸が存在している。再びカントーロヴイチを引用するならば,彼は,ルイ13世の死去とそれに伴うルイ14世の即位を告知するために考案されたジュトンの意匠(太陽の光に照らされた山上の不死鳥を描く)C図5)に付された匂,I不死鳥は父の灰から生まれ,天と太陽から彼に送られる力によって灰から朔ぴ立つ。同様に王も天から奇跡、によって我々に与えられ,父親の死の床から,彼自身の正義の床(litde justice)へと朔び立つ。」に言及した上で,これが「正義の床に就いた」という言い回しと連関していることを解説している。「正義の床に就いた」とは,新しく即位する王が至高の裁判官として高等法院の法廷に最初の姿を現す,すなわち開廷することを意味している(注19)。また彼によれば,-285

元のページ  ../index.html#295

このブックを見る