鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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u月in可qL は共通する特色のひとつとしてあげておきたい。また,1誰ケ袖図」の画面中に描かれた衣裳や衣桁のように,実際の蒔絵や染織,あるいは料紙装飾や扇,貝など,いわゆる絵画作品ではない作品にも,金銀の使用は,欠かすことのできない装飾手段であったことにも特に留意しておきたい。なぜならば,ここでとりあげた画題は,扉風以外にも染織,漆工などに造形化されることが多く,さらに,後に触れるように,扇をはじめとする小画面作品は,これらの画題成立に大きくかかわっている可能性も高い。したがって,今後,工芸といわれるこれらの作品も考察の対象としてとりあげる必要があると考えるためである。さて,この金銀の加飾とも無関係ではないが,さらなる共通性として,工芸的技法の使用,あるいは工芸作品との表現の類似による意匠性の強調をあげておきたい。「誰ケ袖図」では,画中の衣裳に多くもちいられている摺箔をあげることができる。摺箔は,実際の染織作品にもちいる技法であり,型紙で接着のための糊を置き,その上に金あるいは銀の箔をのせ,その後乾いてから余分な箔を払い落とし文様を表現するものをいうが,1誰ケ袖図jに描かれる衣裳には,同様の技法をもちいたと思われる衣裳文様の表現が多くみられる〔図5)。また,画中に描かれた衣桁も実際の蒔絵を思わせる表現が多用されている。さらに,衣桁にかけられた衣裳には,あたかも染織の技法を再現したかのような繊細な表現をみることができる。もちろん実際に染織技法を用いているわけではないが,たとえば,匹田鹿子,辻が花染など,明らかに観者に特定の染織技法を意識させるような表現がなされている。他の二画題に比すると,画面に人工的なモチーフを伴わない「武蔵野図Jについては,特に工芸的といえる技法を指摘するのは難しいといえるかもしれない。しかしながら,素地に撒かれた箔や銀箔で表現された月の表現に工芸作品との共通点をみることができょう。さらに先も触れた通り,水平線による画面の分割も工芸的であり,意匠性の高い画面をつくりあげている。また,11卯橋水車図」では,規則正しくあらわされた網目を持つ蛇龍や精綴に表現された青海波あるいは水しぶきの表現,さらに銅版の最装などに工芸作品との近さを感じさせる表現がみうけられる。橋というモチーフに金を押す手法や砂子や切り箔を併用する金雲の表現も,観る者に工芸作品を意識させる。さらに,橋,柳の幹,蛇寵などのモチーフが極めて単純化がされていることも,工芸作品にみられる意匠との近さ

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