鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
326/716

徴とする北朝墓葬の影響があったことが理解できる。また,備の構成という点でも,武人備や鎮墓獣の存在など,嚢陽墓には北朝墓葬の影響をはっきりとうかがうことができる。では次に,いくつか特徴的な備を選んで具体的に見ていくことにする。A 武人偏武人偏(1武士偏J)は計3体出土したと報告されており,高さ49cmというその大きさは,後述する1I式女侍偏jを除く他の備に比べ格段に大きい。従来図版がなくその造形は不明であったが,調査の結果,安康墓出土の「胡偏」とほぼ同一の造形であることが分かった〔図1)。耳護のついた胃(あるいは帽子か)と丈の高い円領の胡服が特徴的である。胸前に置いた左手には孔が穿たれ本来は何かの武器を持っていたと考えられる。安康墓の胡備はその出土位置などから「鎮墓Jの役割を担うものでないかと指摘したが(注3),裏陽墓の武人備もいわゆる鎮墓武人備の一種である可能性が高い。B 鎮墓獣嚢陽墓からは人面形鎮墓獣1点が出土した〔図2)。北朝墓の特徴の一つである鎮墓獣は,通常,人面形と獣面形l対で出土する場合が多い(注4)。安康墓,漢中墓など周辺の漢水流域の南朝画像碍墓で、も人面形鎮墓獣が1点しか出土していないことや,中央に置かれていたというその出土位置から,人面形鎮墓獣l点のみの副葬がこれらの地域の特徴であったと考えられる。安康墓の鎮墓獣は背中に鋸歯状の置と板状の顎煮を有する点で裏陽墓や漢中墓のものと異なるが〔図3),北朝墓の鎮墓獣に一般的に見られる獣毛表現がなく人間の裸体を訪併させる体躯表現など,やはり基本的な造形感覚には3者共通のものがある。C 男侍衛偏嚢陽墓出土の陶備の大半は前後両面の砲を用いてつくられたものであるが,その中で「男侍衛偏J2体だけが前面の抱のみでつくられていることが調査の結果分かつた。背面がつくられていないため,偏体内部が露出しており,頭部が体に挿入されている様子がうかがえる〔図4,5)。さらに,注目すべきはその姿勢で,上半身を片側に向けるとともに,両脚も同じ方向を向いている。報告書にも指摘されているように,この2体は対をなし,墓室の外を向く格好で墓門両側の壁に貼り付くように置かれていたものと考えられる。また,当初は見過ごされていたことだが,扶手した手の部分と

元のページ  ../index.html#326

このブックを見る