鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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か,という点。の制作年代決定をはじめ,本聖堂の建築と装飾を美術史的に位置づける上で何らかの貢献をなし得るのか,という点。サイクル内場面の採択と配置の問題「ニコラオス伝jサイクルの諸場面は,上段(向かつて)左上より,Iニコラオスの誕の物語J,下段は「三将軍の物語」から採られた4場面,すなわち左端上部に「アブラピウスの夢枕にたつニコラオスj下部に「獄中の三将軍J,その右に「コンスタンテイヌス帝の夢枕にたつニコラオスJI三人の無実の男を処刑から救うニコラオス」と続く。さらに,I海の奇蹟jから採られた2場面,すなわち「アルテミスの物語jと「穀物船の奇蹟」が続き,右端に「ニコラオスの死jがくる。このような配置状況から,一見,左上の「誕生」の場面からはじまって右下の「死」の場面へと,聖人の一生が時間軸に沿った連続したストーリィとして捉えられているようにみえる。ここで,1聖人伝イコン」の枠絵において観察できたいくつかの事柄を確認しておきたい。基準作例としてとりあげるのはシナイ山聖エカテリナ修道院から出たイコンである〔図4)。このイコンの16の「枠絵」場面の配置を観察してみよう。そこにおいては,一方では「誕生JI教育J,二種の「叙任J(およびミサを挙げる)I死」という定式の配列をみせながらも,他方,奇蹟に因む物語の配列には法則性を見出し得ない点,とりわけ「三将軍の物語」を構成する複数の場面配置が,聖人伝テクストの収録順序と一致せず,ナラテイヴ・シークエンスが放棄されている点,I三人の無実の男を処刑から救うjに出てくる三人の男と,それに続く場面に出てくる三将軍との描き分けが明確になされていないという点が指摘でき,それらはオルファノス聖堂においても観察できる事実である。また,この作例に限らず,I聖人伝イコンJの上段部においてよくみられる「誕生JI教育j及び「叙任jの諸場面とつづく左から右への横並びの配列の仕方が,オルファノス聖堂での上段の主題の並び方と共通することもつけ加えておきたい(注5)。オルファノス聖堂の各サイクルにおいては,水平の帯状に配された諸場面の一つ一つが縦の枠線で区切られているものと,区切れなく並んで、いるものとがある。これら生JIニコラオスの教育JI輔祭への叙任JI司祭への叙任JI主教への叙任JI三人の娘3.そして最終的に,1ニコラオス伝」サイクルの分析から得られる成果が,本聖堂332

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