しいエルサレムJ,対抗宗教改革期の信心に基づいた「ロザリオの玄義J,Iキリストのまねび」としての聖人伝という各サクロ・モンテの中心主題の違いによって生じたと考えられる(注11)。すなわち,あるサクロ・モンテの礼拝堂配置は,中心主題によって定められているのである。それでは,中心主題の個々のエピソードを表すために礼拝堂に施された内部装飾は,礼拝堂配置とはどのような関係にあるのであろうか。以下の章でそれを見ていこう。2 中心主題と礼拝堂配置と内部装飾の関係個々のサクロ・モンテには固有の中心主題がある。中心主題を構成する個々のエピソード(例えば,iキリストの生涯」の各エピソード)は,一礼拝堂の内部で個別に表される。つまり,サクロ・モンテにおいて中心主題は複数の礼拝堂の総体という形で具体化されているのである。そして各礼拝堂に表された場面の連続が一つの物語を構成する以上,各礼拝堂がいかに配置されるかは中心主題にかかってくる。一方,エピソードを具象的に表す役目を担う内部装飾が,中心主題の構成要素であることは言うまでもない。礼拝堂をどのように配するか,礼拝堂内にどの場面を表すかは,中心主題に決定づけられているのである。このことを確認した上で,内部装飾と礼拝堂配置との関係について考察を進めたい。礼拝堂内に表すべき場面は礼拝堂配置に先立つて選ばれる。しかし,その場面の制作は,当然,礼拝堂が建造されてから,つまりその配置が決定されてからである。従って,礼拝堂の建築形態や配置が内部装飾の構成の前提条件となる。それでは,礼拝堂配置は内部装飾にどの程度,どのように反映しているのだろうか。まずヴァラツロ以外のサクロ・モンテでそれを検討してみよう。内部装飾を礼拝堂配置に照らし合わせて考察するには,なるべく内部装飾が制作当時のままで現存していることや,礼拝堂建設と内部装飾の制作との聞に時間的な隔たりがなく,両者が一貫した計画に基づいていることが前提条件となる。しかし,先に礼拝堂配置を取りあげたクレア,オルタ,ヴァレーゼ\アローナのサクロ・モンテの中で上記の条件を満たすのは,オルタとヴァレーゼのサクロ・モンテのみである。そこで,この二つのサクロ・モンテに絞って考察を進めていこう。オルタのサクロ・モンテの内部装飾は1620年以前と以降でその性質が変化しているが(注12),ここでは,ヴァラッロのサクロ・モンテ再編と同時期に制作されているこ-391-
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