とや,創建から年月を経ていない方が初期構想、から逸脱の度合いが少ないと考えられることから,1620年以前の内部装飾のみを取りあげる。初期の礼拝堂はその大半が矩形プランをもっ。内部装飾は,入り口と正対する側に中心主題を表す彫像を置き,それらをのぞき穴の付いた木製の衝立で囲う形と,礼拝堂全体に彫像を配す形とがある。いずれの場合にも,壁面には,彫像で表された場面に関連する諸場面が,ルネッタと天井にはフランシスコ会の思想、を表す擬人像や象徴物をもった天使が描かれている〔図10-1, 2 J。このように,内部装飾全体の構成は,一礼拝堂内に表された様々な場面同士が相互に関連していることを示している。しかし,内部装飾はー礼拝堂内で完結し,ある礼拝堂に割り当てられた場面と,別の礼拝堂に表された,物語の展開の上で連続する場面との因果関係が内部装飾によって表されることはない。各礼拝堂に割り当てられた聖人伝のエピソードは,相互に緊密な連続性をもって展開していく性質のものではないからである。次にヴァレーゼを見てみよう。17世紀中葉以前の礼拝堂は,長方形プランか集中式プランで建てられ,正面と側壁に一つずつ窓があり,観者は三方から礼拝堂内部に表された場面を見ることができるようになっている。そこに施された内部装飾はオルタのそれとほぼ同様の特質を備えている。彫像との一体性を欠いた壁画は,彫像で表された場面を単に補足説明しているに過ぎない〔図11J。加えて,内部装飾は一礼拝堂の中で完結し,前後の礼拝堂との連続性を欠いている。内部装飾がこうした特色を持つのは,それが,物語としてのマリア伝そのものというより,そこから派生した象徴的な祈りである「ロザリオの玄義Jを説明的かつ象徴的に表さなければならなかったからである。玄義としての各場面はもはやマリア伝という物語を構成する連続的なエピソードではなく,時間的に前後する場面聞の因果関係は希薄になっている。その結果,ヴァレーゼのサクロ・モンテでは,それぞれ離れた位置に建つ礼拝堂に表された玄義の聞に本来あった物語のエピソードとしての繋がりを,巡礼者に示す必要がなかったのである。オルタとヴァレーゼの両サクロ・モンテともに,内部装飾は,前後の礼拝堂で表される場面との関係性を強調しないという特質を有している。それは,上で述べたように,中心主題を成立させるエピソード同士の因果関係の薄さによる。とはいえ,1ロザリオの玄義」が物語の展開順にマリア伝とキリスト伝の場面を黙想するものであり,聖フランチェスコ伝が誕生から列聖という時間の推移に従った物語である以上,個々392
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