⑮ 日本中世絵画における聖地図像の研究研究者:学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程水野僚子はじめに鎌倉時代から室町時代にかけて,末法思想、や本地垂遮思想、の高まりを背景として,神仏の宿る土地一本稿では総称して「聖地」と呼ぶーの景観を描く絵画作品が数多く制作された。それらには神仏をイメージさせる様々なモチーフが散りばめられ,観者に神仏を実感させるような工夫が凝らされた。このような聖地の姿は,垂j亙画や社寺縁起絵等の様々な絵画に繰り返し描かれることで,中世人の抱く特有の神仏のイメージや聖地の視覚的イメージを形作っていったと考えられる。中世の聖地画像に関する従来の研究には,宮憂茶羅や社寺縁起絵,参詣憂茶羅などいわゆる「神域JI霊場jなどと称される寺社の景観を描いた絵画を論じたものがある。だがその多くは個別の作品研究にとどまるものであり,図像学的立場からの聖地画像研究は未だなされていない。本研究は,聖地を描いた中世の絵画作品の中から,聖地の指標となるようなモチーフ(本稿では「聖地図像jとよぶ)に注目し,それらを図像学的な視点から考察する試みである。本報告においては,まず最初に研究の方法と概要を述べる。次に研究によって確認された聖地図像のうち代表的なものを取り上げ,造形から意味や機能を探る。最後に具体的な作品を通して聖地図像の受容と展開の様相を確認し,聖地図像という観点からの新たな作品解釈を試みたい。l.研究の方法と概要本研究では,従来注目されてこなかった様々なモチーフー具体的には景観構図,建築表現やその構図,山水表現,植物や雲,日月などの景物,彩色等ーに注目し,聖地図像に関するデータの集積および、分析を行った。対象としたのは,聖地が描かれた中世の絵画作品宮蔓奈羅・社寺縁起絵・祖師絵伝・物語絵・経意絵・仏伝図等である。実在の聖地だけでなく架空の聖地の景観も取り上げ,掛幅や)弄風,障壁画,絵巻に至るあらゆる形態の作品から,聖地画像の抽出を試みた。またそれらを分類・体系化することで図像に託された意味や機能を探った。さらに聖なる土地を表す典型的な図像と表現形式がどのように形成され,いかなる変遷を遂げたのかということを検討-426-
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