2.聖地図像の意味と機能した。合わせて作品調査も実施し,聖地図像の細部表現や様式の検討も行った。では,具体的な聖地図像の検討に入ることとする。モチーフとして注目できる聖地図像は,瑞雲・日月・四季の景物・人物である。瑞雲は非常に多くの作品に散見され,山の頂上付近や重なりあう山々の谷聞から沸き立つように表現されているものが多く見られる〔図1)。多数の仏画や仏教説話画にも描かれていることから,仏の住む聖地の指標であったことが理解される。また,物語絵画には高僧や神仏の奇瑞を表すモチーフとして,仏画には阿弥陀や菩薩の乗る雲として描かれていることから,行為体の聖性を表す記号でもあったことが理解できる。つまり聖地に描き込まれた瑞雲は,その場所が聖地であることを示し,土地の聖性を視覚的に高める聖地図像として機能しているといえる。日月に関しては,日輪・月輪のモチーフが聖地図像として挙げられる。垂遮画の要素の一つでもある日月のモチーフは,仏教・民俗信仰・神仙思想、・陰陽五行説・本地垂遮説など多様な思想、を基盤として成立した。その造形には様々な意味が託されており,聖なるイメージも含まれることが既に指摘されている(注1)。日月は,その土地が特別な場所であることを示しながら,さらに循環する時間の永遠性や土地の霊気の恒常性をも表していると考えられる。四季の景物もまた聖地を表す際に多用される聖地図像と捉えられる。興味深いのは,四季を完備させているものと,春秋二季の景物のみで四季を表すものが見られることである。景観に四季を具備させる観念は,既に中世に生きる人々の世界観に定型化されていた(注2)。四季の景観は遥かな異郷や理想郷を描く際に慣例として描き込まれていることからも(注3),聖地にふさわしいイメージであったと推察できる。四季の表出は,日本の伝統的美意識に基づくものと軽視しがちであるが,四季を年々繰り返される季節の循環と捉えるならば,土地のあるいは土地に宿る霊気の恒常性,ひいては永遠性を表現したものであり,聖地図像として捉えることができょう。人物モチーフに関しても,聖地図像と認識できるものがある。参詣人の姿は最も理解しやすいものである。また,乞食や非人といった下層の人々の姿も聖地図像と考えられる。寺社の門前といった聖俗の境界に多く描かれている彼らは〔図2・3),聖俗の境界或いは聖地の起点を表す指標であることが理解される。また,中世の人々が彼-427-
元のページ ../index.html#437