⑮ 久間守景のいわゆる加賀時代の画業に関わる調査研究一一福井所在の作品・資料一一研究者:広島大学大学院教育学研究科助教授菅村はじめに私たちにとって江戸前期の絵画史におけるその存在感の大きさに比して,久隅守景像は確固としたものになっていない。謎の画家とも呼ばれる守景については,多くの研究者が意を注いでいるにもかかわらず,その伝記も十分に明らかにならず,画業の全体像把握もままならない状況にある。榊原悟氏の述べられるとおり手詰まり状態にある(注1)。このような状況を打ち破るには,さらなる作品・史料の渉猟を続けるとともに,既知の史料の読み直しといった作業なども必要となるだろう。本調査研究では,守景がその後半生の一時期を過ごしたといわれる加賀金沢を中心とする北陸地方における画業を明らかにすることを目標とし,特に近年守景作品が報告されている福井地方において,作品および関係史料の調査を実施したO以下にその内容を報告するとともに,得られた知見をもとに守景の伝記に関わる二,三の点について,若干の私見を述べたい。I 調査作品の概要様々な画題の絵を集めたこの扉風は,これまでも幾度か公開されており,平成4年(1992)には「知られざる『御用絵師の世界』展J(松屋銀座)に出品されるなど既知の作品である。しかし展覧会図録等にもまとまった解説がなされていないので,ここに取りあげておきたい。扉風を構成する12図は6図ずつl隻の金扉風に押されている。左右隻の区別はないと思われるので,便宜上,I李白観爆図」から左方へ,順に番号を付して述べていくことにする。なお,各図はいずれも絹本着彩,画面寸法は106.9x 42. 2cmである。腕を後ろ手に組んだ李白が,少し身を反らしながら左上方に滝を見上げる。滝は細く柔らかい線で描かれ,飛沫もあげない穏やかな落水で、ある。李白の立つ岸辺には細かく屈曲した梅樹が描かれている。落款印章は「守景書J,I久隅J(朱文長方印)(図1-(1 )李白観爆図〔図1-(1)J 1 I人物花鳥禽獣図押絵貼扉風J6曲l双福井市大安禅寺蔵亨442
元のページ ../index.html#452