ドイツは13~14世紀に,他の地域にも増して女子修道院が設立され,その多くが現1 ドンナレジーナ聖堂の建築と絵画Congress on Medieval Studies) Jで発表することができた(注3)。ここで同財団に,深甚なる感謝の念を記しておきたい。在でも残されている。イタリアでは孤立した作例と言えるドンナレジーナ聖堂の建築は,以下で詳述するように,同様の建築類型を示すドイツの女子修道院建築と比較することによって,初めてその特徴を明らかにすることができる。それは,延いては建築の効果に基づいて配置される絵画図像をよりよく解釈し,また当時のフランシスコ会の霊性を映し出す修道女の信仰生活を深く理解することに通じるのである。そこでまず第l章では,これまでの研究成果に基づいてドンナレジーナ聖堂の建築と絵画を概観して,ドイツの作例との比較のための出発点としたい。ドンナレジーナ聖堂の建築は,単身廊と寄蔭天井の架かる多角形内陣部から成り,フランシスコ会建築に一般的なものである(注4)(図4)。しかし次に挙げる二つの点から,この建築はイタリアではまったく特異なものとなっている。第一に,身廊部の三分の二を覆う二階修道女席を設置した点である〔図2-4)。これはドイツの女子修道院に付属する聖堂には常に見られるものだが,イタリアでは類例を見なし」修道女たちは当時,禁域(clausura)に留まり俗人との接触を禁じられていたが,修道院と直結するこの修道女席を持つことにより,禁域の規則を侵すことなく典礼に参加することができたのである。地上階で仕切り壁などによって俗人席と隔たれているのと異なり,このタイプの建築において修道女たちは,初めて聖堂の中で相応の居場所を確保し,また視界を遮られることなく建築を享受できた点が重要である。次に内陣部に関してだが,ドンナレジーナ聖堂の場合,それは単に5辺からなる多角形アプシスではなく,身廊との聞にl径間分の延長部を持っている〔図4-6 )。これは次章で詳しく述べるとおり,やはりドイツ語圏に頻繁に見られる長後陣(Lang-chor)と比較されるべきものである。長後陣は,より多くの聖職者がミサに立ち会うことを可能にするだけでなく,建築の効果をも強める。すなわち,視覚的には光に満ちあふれ,空間的にはより奥深い感じを内陣部に与える。長後陣の典型的な例であるレーゲンスブルクのドミニコ会聖堂やフランシスコ会聖堂では,八角形の内の5辺か-455-
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