(Kurzchor) Jと呼ばれるべきものである(注5)。いずれにしろドンナレジーナ聖堂でら成る(5/8の)端部と身廊との聞に,4径間分の延長部が置かれている。ドンナレジーナ聖堂では最小の延長部を持つことから,逆説的に「短い長後陣jあるいは「短後陣は二階修道女席が導入されたことにより,修道女たちはこの内陣の生み出す建築的効果を享受することができたのである。ここでは聖堂内のフレスコ画装飾について簡単に述べることしかできないが,凱旋門形アーチ(内陣アーチ)壁面上に描かれる〈天使の位階>c図7)は,彼らに与えられた「観想の能力(viscont巴mplativa)Jを用いて,類比的に神に擬えられる内陣から入り込む光を見つめていると考えられる(注6)。その光は,上述した「短い長後陣」の建築的効果によってより印象深い。そして修道女もこの天使たちと同様,二階修道女席からこの光を見ることができたのである。彼女らは,地上階の聖職者や俗人には目にすることのできなかった修道女席左壁面に描かれる「キリスト受難伝」と「テューリンゲンの聖エリサベト伝jフレスコ画を前にして,黙想に努めた〔図8)。そして改俊の心を持って内陣に目を向け,神の現存を眺めた(VisioDei) ,というよりはおそらくその「至福直観(Visiobeatifica) Jの状態に思いを寄せた。このように聖堂の絵画装飾は,黙想の実践のためだけでなく,より神秘主義的な神の観想にも役立てられたのである。ここに見られる当時の修道女たちの信仰のあり方は,フランシスコ会の霊的指導者であった聖ボナヴェントゥーラの著述の中に跡付けられるが(注7),ドンナレジーナ聖堂ではそれが建築と絵画の形をとって,実際に姿を現しているのである。しかしそのためには,イタリアとは異質な建築タイプが導入される必要があったといえる。次章では,そのドイツ的要素について考察して行きたい。2 ドイツの女子シトー会修道院建築との比較i )二階修道女席の形態女子修道院に付属する聖堂において,俗人と接触することのない修道女席を設けることが第一の課題であった。それは聖堂内に仕切りを立てるか,あるいはアプシスの裏側や身廊と回廊との聞など,聖堂の外部にスペースを確保することによって解決されていた。しかしいずれの場合も修道女たちは,聖堂の主要な部分から隔てられた場所に閉じ込められ,そこからはわずかにのぞき窓を通して,ほぼ聴覚のみに頼ってミ456
元のページ ../index.html#466