る説あり)の左方の柱の輪郭は強い縦筋をもち回線と思われるが,このあたりは縦折れが多く見られ,いずれとも受け取れる。「早蕨J(匂宮が宇治の中君を京に迎えることになり,中君の女房たちがその準備をする場面)では,布を裁ち,縫う女房たちの右端に描かれた柱の輪郭に強い筋が付いている。その筋は女房の衣に及んでおらず,凹線による下絵の痕跡と推測した。「宿木-J (今上帝が薫を娘・女二の宮の婿にしたいと考え,薫と碁を打つ場面)と,「宿木三J(匂宮が久方ぶりに妊娠中の中君のもとで過ごし,匂宮の真意を測りがたいと感じていた中君を琵琶で慰める場面)の二場面は,回線が使用されたのかどうか判断できない。「宿木二J(婚儀を済ませた匂宮とタ霧の娘・六の君との露顕翌朝の場面)では,匂宮と六の君と,女房たちの聞に立てられた扉風の枠に強い縦筋が見られる。その筋は扉風の上端から縦枠に沿って続き,畳の縁と直角に交わる扉風の下枠で止まっている。これは偶然に生じた紙折れではなく,場面構成の目的のために引かれた回線と推定できる。また九帳の右端の輪郭と野筋にも強い筋が認められる。そこには直線と曲嫌が用いられるが,九帳の輪郭と野筋以外には及んでおらず,これも九帳を構図するための回線であろう。「東屋一J(中君が匂宮の誘いに困惑する浮舟を自室に招き,物語絵などを見せて慰める場面)では,半聞きされた山水図襖と右側の襖の木枠右部分に強い縦筋が見られる。いずれの筋も襖の下枠で止まっており,襖の位置取りのために引かれた回線と考えられる。「東屋二J(薫が三条の家に匿っている浮舟を訪れる場面)では,薫の座る傍の妻戸の右輪郭に強い縦筋が見え,費子を支える二本の束柱の輪郭にも筋がたどれる(描き起こし図2)。このうち妻戸の筋は薫の身体を通り,濡れ縁のあたりまで縦折れとなって伸ぴている。また室内の女房が開けようとしている襖の縦枠に,同様の強い筋が見える。その筋は襖の下枠のところで止まっている。これらは他の場面に見た強い筋と表現の共通性が見られ,回線と推定される。このように徳川美術館本「源氏物語絵巻jでは,十五場面のうち十二場面に凹線を使用した可能性が指摘できた。その強い筋の大半が柱,襖,扉風といった室内に描かれたモティーフの輪郭に沿った直線状のものである。一方,曲線の凹線は衣,指貫などの一部分に限られ,直線状のものに比べて少ない。これは下絵時の凹線使用が,長-477-
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