鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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礎としての役目を終えれば見られることのない下絵の性格に適うものといえる。もちろん墨線の使用を止め,回線だけが用いられたというのではないことは,たとえば「源氏物語絵巻」の「蓬生Jの場面で源氏に差しかけられた妻折傘に墨線による傘骨の下絵が見られることからもわかる。下絵制作では墨線は恒常的に使用されており,凹嫌が施されているのは描き起し図に示したように長押や畳の縁など直線状のモティーフが主である。凹椋もしくは墨線は描く対象に応じて使い分けされていたといえよう。とくに白描絵の場合は回線によって紙面を窪めて下絵を作ることは本画の線を妨げない点で有効な手段である。筆記具は不明であるが,やはり角筆のような硬質な用具が想定される。現存する絵画作品は,保存修理を経たものが多く,裏打ち作業などで回線の窪みが浅くなり,場合によっては消えてしまうこともあったかもしれない。こうした要因からこれまで回線が見逃されてきたのではなかろうか。回線を見出すことは容易ではないが,今後は対象を広げて調査を継続し,作画の技法のーっとして下絵制作における凹娘の使用の実態を把握し,作画手法による作品分類や制作者の解明に結びっくような研究に進展させたい。480

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