注(1)佐藤康宏『絵は語る11湯女図』平凡社,1993年(2) 田辺昌子「江戸の恋人たちJr浮世絵を読むJ1 春信,朝日新聞社,1998年51 (3) 歌舞伎・人形浄瑠璃劇作用語。作品の背景となる時代・事件をさす概念。13)。する役者紋・小道具・構図の語る物語の世界が深まる。図様が意味する物語を堆積していくことは,主に役者絵の分野で行われている。そして今回,八百屋お七の芝居に取材する作品を中心にして,構図やモティーフのもつ意味の展開を確認した結果,これまで八百屋お七の芝居との関わりを指摘されなかった作品にも,芝居の物語世界との接点を見いだすことができた。祐信以前に図様は役者絵として存在していたが,祐信が同じ図様を美人画として描く点を学び,上演の配役や演目に重点を置いた従来の役者絵とは性格を異にする,芝居の物語世界を背景にしながらも美人画として独立して鑑賞に耐える作品が生まれている点が確認された。手彩色から紅摺絵へと技法が展開する時代の作品は,物語を重視する役者絵が登場し,美人画のジャンルとの境界が暖昧になっていったということができょう。紅摺絵草創期に行われたこれらの表現の延長上に,錦絵の見立絵,ゃっし絵が登場するのではないだろうか。岩田秀行氏は,春信時代の見立絵の手法は,I見立jではなく,Iゃっし」であると指摘している(注春信直前の紅摺絵時代で,構図に芝居の物語を象徴させた手法が行われたことは,春信時代の見立絵の多くが,形態的疑似を伴う「ゃっし」であるということと自然に結びつくように思う。素朴な色彩と娘描の描きこみで表現された紅摺絵の類型的な構図や主題にも,芝居の情報に明るかった当時の人々は,絵に描かれた以上の深みを感じとっていただろう。線や色がシンプルであるほどに,想像される物語の連鎖が自由に拡がっていく。色や線の魅力と,構図やモティーフによる象徴的な表現の両方の作用によって,紅摺絵の中に叙情的な世界を感じ取ることが出来たのだと思う。浅野秀剛・吉田伸之『浮世絵を読むJ1 春信,朝日新聞社,1998年~65頁実際にはその中の登場人物の役名,それらの人物の基本的性格(役柄),人物相互の関係,基本的な筋,脚色された基本的な局面や展開などを含む概念。-490-
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