(1578年)の中の「罪人の許し」にも「シモンの家のキリストJとともに「キリストと姦淫の女Jは表されている(注16)。く版画家に特に取り上げられた。それらは,聖俗逆転の構図によらず,描写の特徴から言っても,アールツェンの直接の影響とみなすことはできないが,アールツェンの作品の意味やその後の展開を考える上で,たいへん興味深い。たとえば,1578年のヘンドリク・ホルチウスによる〈キリスト,徳の手本〉と題される銅版画〔図10Jは,画架を立ててキリストの「心」を絵筆で写す,若い女性の周囲に,いくつかの聖書場面を配したものであるが,そこに「キリストと姦淫の女」が採られている(注14)。それは画面右中ほどに表され,下には,Benignitas (寛大)の語と「あなたを罪に定めない(ヨハネ8)Jとの聖句が記される。他には,I弟子たちの足を洗うjや「悪魔の誘惑」などが取り上げられて,Humilitas (謙譲)Fortitude (剛毅)の語が添えられている。また,フィリップス・ハレによる〈慈悲の七つの業〉の連作のひとつ「罪の許し」〔図11Jにも「キリストと姦淫の女」が,I放蕩息子のたとえJや「無慈悲な僕のたとえ」などとともに表されている(注15)。また,ホルチウスによる〈信仰の寓意〉の連作「キリストと姦淫の女Jは,銅版画の画面全体を使って表されることもあった。その場合,多くは聖書のいくつかの場面を連作の形にまとめたもので,フィリップス・ハレによる〈キリストと福音書の女性たち〉の連作(アントニス・ブロックラント画), アドリアーン・コラールトによる〈新約聖書場面〉の連作(マルタン・デ・フォス画)等に「キリストと姦淫の女」が取り上げられている(注17)。一方,聖書に登場する女性たちを表した一連の作品も重要である。女性たちが半身もしくは全身で表され,初期には新旧約両聖書から人選されており,1560年頃出版されたマールタン・ファン・ヘームスケルクによる〈聖書の女性たち〉がその例である(注18)。ユデイツトやルツ,マグダラのマリアや聖母が取り上げられているが,I姦淫の女」は採用されていない。しかし,それにやや遅れて一説に1600年頃アドリアーン・コラールトは,1旧約聖書の女性たち」と「新約聖書の女性たち」を分け,連作化した。その中に「姦淫の女」を見ることができる(注19)0{新約聖書の名高い女性たち〉と題されるその連作は,アドリアーンの他ヨハネス・コラールトとカレル・デ・マレリィが加わって,マルタン・デ・フォスによる原画を版画化したものである〔図12J。そこに取り上げられる一523-
元のページ ../index.html#533