鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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中央はたてに宝珠・両耳に白宝珠(ー宝)をのせる。そして,さらに三頭蛇は,日中より湧雲を吐き,その雲上に三弁宝珠を生じさせている。三頭蛇の頭部向かつて右脇侍は,一頭蛇の人身像で,右手に金色の宝棒を持ち,肩にかける。足下は赤口の濃厚な火焔と二宝珠を台とし左手は胸前で宝珠を持つ。口は対する左脇侍へ向って宝珠を吹き出し,それは連珠のごとく連なっている。左脇侍の像容は右と同じ一頭蛇の人身像で,左手に金色の宝棒を持ち肩にかける。左手は同様に宝珠を持ち,口から宝珠を吹出し,右から出たものと連結している。足下には俵を台とする。その下辺には白水の入った曲げ物が置かれている。なお本尊の三頭蛇人身像宝珠と十数個の宝珠に固まれ描かれる。その下には白米の入った臼と二本の杵を配置,同様に七色の宝珠が付随する。また,その横は四つの俵と守万を置く。その下の画面中央には,一頭蛇人身像が坐し,右手は稲穂,左手は金色の宝器を持つ。さらに,その右上をみると,白い管の束を青色と赤色の紐でくくって上下に配置している。最後にその右辺に五宝珠が交叉する棚を置き,下には藁桶にぎっしりと五色の宝珠がつめ込まれた状態で描かれている。なお,中央の三頭蛇の十管は,宝珠・経巻・金鉢・俵などで,衣装は女神像に多く使われる天衣をつけた鰭袖付きの櫨補衣で赤地の梧には連珠文・湧雲文が金泥で描かれている。全図最上辺には,たなびく白雲の上方に三山(中央は弥山・左右は金峰山・大峰山)があり,それぞれ赤・青・濃青の火焔宝珠が配置される。このように『天川弁才天量茶羅』は,中央に描かれている三頭蛇人身像が特徴である。周辺のモチーフは童子であり天女であり,そして三弁宝珠・火焔・五色宝珠・俵・臼や杵である。これらはすべて弁才天の変容したシンボルである三頭蛇人身像を讃仰する構図になっている。『大弁才天秘訣Jによれば,中世の偽経といわれる『宇賀耶頓得陀羅尼経』は,不空訳で『最勝護国宇賀耶頓得如意宝珠陀羅尼経』が本経名であるという。この中で宇賀神と弁才天の関係が説かれている。宇賀神はサンスクリット語のウーハ(Uha)で,変化・熟慮・計画の意味がある。したがって,蛇を宇賀神とし,財宝の神(サラスヴァティー)と混合し,蛇を神の使いとするにいたり,蛇頭人身の奇妙な像が出現したと考えられる。また『塵添撞裏喜多、』第四巻によると,宇賀神はもとは倉穂魂命(うけのみたま),保食神(うけもちがみ)と別称し,Iウケ」の転音であるという。そして丹後の国,船木里にある奈具杜の祭神・宇賀能貰の説話を述べ,蛇を世に宇賀と云うのは,宇賀神が50

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