鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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蛇の形に変じて,人には見えない姿になったのだと伝える。ただし,この神は財富をもたらすはたらきを持っているので,その機能に近い弁才天(密教では財宝神)と結合したのだとある。両者の結合を明確に示した造形は,鎌倉後期と考えられる二菅像の『弁才天坐像.1(像高31.3cm .木造彩色〔サントリー美術館=女神たちの日本(平成6年11月1日-12月25日)出品番号32))にみられるように警頂に白髭の老人形の頭部をもっ白蛇の姿をした宇賀神を戴く例があり,これ以後の南北朝・室町時代には数多くみられる。また蛇と宇賀神の合一の例は『弁才天一印次第.1(神奈川県立金沢文庫蔵)に「白蛇が変じて如意宝珠となり,さらには宇賀神主となる」と述べているとおりである。おそらく,この時期頃から密教の別尊量茶羅が展開する過程において,伊勢神道・両部神道への影響が考えられる。しかし蛇・宇賀神・弁才天という人身像そのものの図像学的根拠(人身は白蛇の曲りくねった形態・密教の教義では「無始本有」の意を表象する)だけではない。『弁才天十五童子』というから,流布本に数多く描かれている十五童子の描写・配置にも注目する必要がある。そこで既述の親王院蔵の『天川弁才天蔓茶羅』とは別の石山寺蔵『天川弁才天蔓茶羅.1C絹本着色・縦105.0cm,横38.4cm'室町時代〕を比較してみると,後者は親王院本に無かった十五童子が春属として下辺に描かれている。そこに配置された童子の一群は中心に一頭蛇人身坐像を左側に八童子,右側に七童子が岩場に囲繰するように細密描写されている。十五童子は,①印鋪(欝香)童子〔右手・宝珠,左手・論〕。②官帯(赤音)童子〔両手をあげて帯を持つ〕。①筆硯(香精)童子〔右手・筆,左手・硯〕。④金財(召請)童子〔右手・秤糸,左手・秤量〕。⑤稲籾(大神)童子〔右手・肩に稲束をかつぐ,左手・宝珠〕。⑥計弁(悪女)童子〔両手で弁をもっ)0 (I飯植(質月)童子〔頭上に円形の飯植をのせ,腰に拳〕。③衣裳(除咽)童子〔両手で衣裳をもっ〕。①蚕養(悲満)童子〔両手で蚕器をもっ〕。⑬酒泉(密跡)童子〔右手は杓をもって酒(聾に入った)を吸む姿勢・左手は宝珠をもっ〕。⑪愛敬(施願)童子〔右手・箭,左手・弓〕。⑫生命(虚空)童子〔右手・剣,左手・宝珠)0@従者(施無畏)童子〔宝珠を盛る器を両手でもつ〕。⑭牛馬(随令)童子〔左手で牛馬をひく)0M鴻台車(光明)童子〔船車を曳く〕の名称と簡単な図像の説明が『最勝諸国字賀耶頓得陀羅尼経』に説かれている。経説によると一日から十五日間は,宇賀神に給仕をしながら,衆生に福知をあたえ-51

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