鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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ハhuhd戸如何様にも作り変えることができる。そして,I生身のアジア人」の場合には,メーキャップやカメラアングル,照明などによって「吊り目jを創ることカすできるのである。最後の例は,イタリアのファッションメーカー,ベネトンの広告である〔図14J。画面いっぱいに白人女性と黄人女性の顔のアップが占めている。1991年秋冬に登場したファッション広告である。三人の女性はあくまで「対等」に描かれているように見える。f皮女たちは年齢も同じくらいに若く,ストレート・ロングの髪型も同じである。眼鏡は,金髪の白人女性が青色のフレームであるのに対して,黒髪の黄人女性は赤色のフレームであるが,かけ方は同じである。つまり,この広告は一見したとき,異なる文化背景を持った二人の女性が,全く対等かつ平等に描かれているかのように作り上げられている。異なっているのは「人種」だけというわけである。そして,二人の差異のポイントは,彼女たちの目にある。白人女性の平行に並ぶ目に対して,黄人女性のそれは,明らかに「吊り目」に見える。しかしながら,この差異は,広告の製作者によって巧妙に視覚操作されたものなのである。注意深く広告を見てみよう。黄人女性は,眼鏡に反射したライトを操作することによって,その目の吊り目度をより強調されている。眼鏡に映りこんだライトの反射を,目の両端上部に向かつて曲親を作ることによって,眼鏡の中の目は,実際よりも吊り目に見えるのである。これに対して,白人女性の眼鏡に映りこんだ照明の反射は,平行に走り,両目をはっきりと見せている。平行に走る白い反射が,あたかも眼鏡に窓をあけたかのように,両目の部分だけをくっきりと強調する役割を果たしているのである。広告の最も重要な機能が,1同ーのカテゴリーに属するある特定の製品と他の諸製品とのあいだで差異化を創り出すことにあるJ(J.ウィリアムスン)のは言うまでもないが,ベネトンの広告においては,ひとつの広告の中においても差異化は重要で、ある。ファッションの色彩を差別化するのと同時に,人種の差別化をはかる。とりわけ,肌の色では差別化がはかりにくい白人と黄人のモデルたちの間では,I顔」によってその差異が強調されるしくみにならざるをえない。そして「顔」の差異を決定づけるのが「目」の表象なぜ「吊り目」なのか?それがアジア人の「本来の解剖学的特徴」から来るものでないことは明らかであろう。むしろそれは,表象される側ではなく,表象する側の問題であり,彼らが他者に「見返されることへの恐怖」の心性を語っているのだと考つまり「吊り目Jの創出だった。

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