鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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② オフ・ミュージ7ムの研究一一ハノーパ一万国博に関連して聞かれた野外彫刻展IBaLANCE2000Jの場合一一研究者:広島県立美術館主任学芸員松田「オフ・ミュージアムJ(Off Museum)という言葉は,私が便宜的に作った言葉であり,現時点では広く一般に知られた言葉ではない。あるいは私の知らないところでこの言葉が使われていることがあるかもしれないが,いずれにしても現状ではそれは美学や美術史,あるいは博物館学の専門用語として認知されているとはいえない。この言葉の意味は,英語の字義どおり,Museum(私lは土美術館の意味でからOf:釘f(離れる)することであり,一義的には美術館とは関係がない場所における美術展示あるいは展示会のあり方を指す。したがって,美術館の敷地内の野外展示や,ある一定の敷地内に野外彫刻を集めて展示するいわゆる野外彫刻美術館のようなものは,それ自体が美術館の一部ないし美術館としての枠組みを持つものなので「オフ・ミュージアムjではない。また,特にヨーロッパの広場を中心とした都市作りに際しては,モニュメントとしての彫刻や門などの建造物が屋外に設置されてきた。これは屋外に置いて不特定多数の通行人に見せ,その街の歴史的意味の伝承や景観を構築することが目的であり,美術館に一定の目的を持って集まった人々にのみ公開する方法とは全く文脈を異にしている。そもそも初めから美術館と何ら関係性を有していないし,持とうともしていな私がここで問題にしたい「オフ・ミュージアム」とは,このような都市の景観を構築するために実施されるモニュメントの類ではない。つまり市民に聞かれた近代的な意味での美術館が成立した後に,敢えて美術館という場を避け,そこから逸脱しようとする美術ないしその展示のあり方を問題にしたいのである。これらは,そもそも美術館という場を初めから問題にする必要のない,都市の景観を創出するための野外彫刻のようなものとは別の文脈を有しており,近代の美術館という制度の存在を前提とし,それにある意味で異を唱えているものなのである。この小論で取り上げるIBaLANCE2000J展も美術館や巨大な臨時の美術館ともいえる万国博覧会の存在を横目に見ながら開催された展覧会であり,美術館の外の展覧会である「オフ・ミュージアム」のカテゴリーに当てはまる。以下この展覧会についてしミ。弘-622-

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