鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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ノfー市森林公園のこか所で、ある。ハノーパー市営林局が主催者の一つに加わっているょう。そして,ファウストでの展示作品からもう一点,日本の広島からの出品作品について報告しておきたい。それは,船田奇卑の{BlackRain and Death Shadow} (2000年)〔図1]である。この作品のタイトルは広島に原爆が落とされた時に降った「黒い雨」と,強い放射能と熱によって地面や建物の壁に焼き付けられた人間の影である「死の影」を意味している。作品の外形は,二由一隻の扉風に抽象表現主義的な荒々しい筆致の描画を施し,その前の床に黒いしずくをドリツビングした和紙をたくさん敷き詰め,最前列に小さな液晶モニターを一台置いたものである。黒いしずくは被爆した瓦を粉にして墨と混ぜ、合わせドリッピングしたもの。モニターにはこのしずくが雨のようにしたたり落ちる動きと黒いしずくの跡が映し出される。また,彼はファウストの上空580メートルで,1945年の広島と同じように原子爆弾が爆発したら,ハノーパー市民たちの「死の影」はどのようになるかを作品にした。その方法は,爆心地をファウストとした場合,そこから500メートル,1000メートル,1500メートルの同心円上の任意の地点約30個所に,実際に緑色に塗られた合成樹脂の「死の影Jを持ち歩き,それを地面に置いてデジタルカメラに記録し,後で色を反転させるなどの編集を加えて(つまり「死の影」は赤くなる)液晶モニターに上映するものである。モニターには彼の「黒い雨」と「死の影」が交互に現れる。彼の作品は単に展示室に展示された作品のみで完結しているわけではない。むしろ室内の作品は象徴的な意味を持っているに過ぎない。彼の作品の重要な意味は,万国博覧会の会期中で賑わっているハノーパー市民たちに,具体的な「死の影」を持ち込むことによって,広島の原爆という歴史の事実を現在に更生らせたことにあるというべきだ。ファウストの展示室ではもちろん物理的な制約から屋内のほうが展示として適している作品が展示されているが,全体の傾向としては,いずれの作品も単純な造形美を表現したものはなく,全てこのようにコンセプチュアルな要素を含んでいるといってよい。さて野外展示の会場は前述のとおり,ハノーパー市中心部の繁華街の路上とハノーのは,会場の一つが営林局の管理する市の森林公園になっているからである。625

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