⑥ 初期唐三彩陶器の研究研究者:専修大学文学部教授亀井明徳唐三彩陶器にの初現については,近年の中国における墳墓の調査の成果に基づき,7世紀の後半,670年前後とされている。そして,永泰公主李仙意墓など一連の皇族の墳墓副葬品にみられるように,8世紀,盛唐になって,より精巧,華麗,造形力のある作品が作られたとされ,安史の乱を境として,8世紀の後半には衰え,その後は,晩唐三彩陶の名称、のもとに,盛唐期とは異なる作品がみられる。こうした考えは,内外の多くの研究者によって唱えられ,とりわけ,その初現時期については,中国の紀年銘共伴の墳墓が,660年代を遡るものが,未だ発見されていないことによって,定説となりつつある。しかし,670年以降の紀年銘資料などの唐三彩陶のあらゆる器種・備をみると,必ずしも造形的に優れたものは少い。しばしば引用される陳西省・李鳳墓(675年葬)出土の三彩陶は,すでに簡略化がはじまり,数ある三彩陶のなかでも,様式的に古式とは云いがたい感がする。いっぽう,内外の美術館に蔵せられている三彩陶を瞥見すると,670年以降の紀年銘墓出土品よりも,はるかに優れ,かつ古式の様式をもっ作品に接することができる。これらは,すでに発見地すら詳らかではなく,遺跡から年代を判定することは不可能である。すなわち,状況は,670年代以降の,型式学的に古式でない一群と,年代的に明確にできないが,造形的に優れ,古式様式をもっ一群に分かれている。こうした認識を出発点として,後者の年代に関して,恋意的ではなく,あるいは,優れて美的である故に,年代的に先行すると推定するのではなく,より合理的に,年代を位置付けることができないであろうか。本研究は,それへの試みのひとつである。その方法として,惰代の主として白益から,唐代の白姿および三彩陶へ,連続して同一器形が作られたものを狙上にあげて,それらの変遷過程を追跡して,そのなかのどの地点に,三彩陶のうちで,最古式の様式とみられるものが位置づけられるかを,検討したい。この対象作品として,竜耳瓶が最適であり,以下この器形の変遷について述べたい。-54-
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