鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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2. 18世紀半ば制作家具ブルは,中国風を強く厳密に押し出している意匠であるのに比べ,シャンデリアや壁掛けランプ,大鏡などは,寧ろ,中国風を陵昧にして,西洋人の感覚で「異国風」に調整されている。家具として室内全体の調和が考慮されたのであろうが,少し重い感じの作風が優先されている異国風で,ナポリなどの軽いロココ調とは異なる様式である。椅子8椅〔図10J,長椅子l椅〔図5J,肘掛け椅子2椅〔写真5J,暖炉固いl面,コンソレ型小机2机の彫刻は,ルイジマネッティ(LuigiManetti)が制作。こちらのほうは,前者のように異国趣味の丸彫装飾は殆ど付かず黒地に金色を基調とした彩色で花井文や鳥など平面的な装飾模様が家具や調度の一部に付くのみで,異国趣味の雰囲気は僅かに加味されている程度といえる。調度全般の鍍金,金箔貼り,ラッカー塗装,堺、銅象最,金具などは,フランチェスコ・ピアンキ(FrancescoBianchi) ,オドアルドチャパッティ(OdoardoCiabatti)が請け負った。(中略)a I観音開扉南蛮箪笥J:日本製の螺鍋蒔絵羽田板を正面扉,左右側面〔図13,14J に使用している。ヨーロッパ製の部分は18世紀半ばにフランスで制作されたとされる。正面及び左右羽田板の周囲は,黒地に牡丹折枝の蒔絵風模様が施され,さらに「榔子唐草J(パームフロンド)風の金色の木彫浮彫を貼り付けている。黒地に蒔絵風の意匠が付き,さらに金色榔子唐草の飾りが加えられているなどから,18世紀の高級家具師によって制作された家具であろう。日本の蒔絵羽目板に調和させているのであろう。色彩や意匠も派手すぎずに程よく抑えられている。観音開扉をあけると箪笥内部は二段の棚が付き,内側は黒塗り一色で装飾は付けられていない。天板はジ、ェノヴァ産緑色石で作られている。b I引出箪笥JC図9J :僅かにカーヴを持つ華宥な四脚が箪笥本体を支えるエレガントな家具である。「中国の間」で「観音開扉南蛮箪笥」と対象位置の壁,どちらもほぼ中央付近に置かれている。「観音開扉南蛮箪笥」が日本製羽目板を組み込んだヨーロツパ仕上げの合作家具であるのに対しこちらは純ヨーロッパ製所謂「摸倣漆Jを使用したと考えられる家具である。実際は「ヲ|出」が二段付いているが,円|出」前面の意匠は箪笥正面を一面として完全に繋がる図であるため,1ヲ|出」を閉じると「引出」が付けられていることは隠されて,一塊の美しい家具となる。金色「榔子唐草j文木-680-

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