口δ彫浮彫も,花井文の枝がぴったりと完全に繋がる。「榔子唐草J風木制浮彫は正面を三分割する。正面中央には橘唐草,左側に牡丹または蓄積であろう花叢に蝶が舞う。左には百合に似る花を啄ばむ尾羽の長い小鳥。黒地に金蒔絵風に仕上げられ,螺鋼,朱,緑の色彩が加えられ,さらに葉の部分などには量しゃ絵梨地,描割,付描などを模して描かれている。正面中央は橘らしい枝で埋められている。家具の左右側面にも,金色の榔子唐草模様浮彫が付けられる。中央方形部分は西洋唐草文の細い縁で囲み,その内側に葵唐草丈風の意匠を平蒔絵風にアレンジし,赤,青などが加えられている。黒地に金を基調とした意匠はさらに,これらの鮮やかな色彩や螺銅が加えられて,華やかな空間をつくる。天板はジェノヴァ産緑色石。一見して華やかで豪華な家具であるが,この箪笥は「観音開扉南蛮箪笥Jを意識して制作されたのではないだろうか。同室内に置くことを予め考慮して設計され,室内で十分に調和が取れるように工夫されているように思われる。それは,1.天板に同ーの大理石が使用されている。2.ほほ同じ高さである。3.金の「榔子唐草j風浮彫の様式も類似する。4.I観音開扉南蛮箪笥」の両側面とは技法的に特に類似が認められる。例えば,金色で埋める平蒔絵に螺銅が処々に散らされる南蛮様式を踏んでいる側面の意匠,などからである。よって,この箪笥は「観音開扉南蛮箪笥Jとほぼ同時期か,その後のあまり長くない時間が経った時期に制作されたと見てよいであろう。少なくも,1700年代前一中期にフランスの高級家具師によって盛んに製作された“Commode"という箪笥である点にも合致する。「観音開扉南蛮箪笥」の正面は1842年に大きな補修が加えられているので,現在は,少し雰囲気が異なっているものの,両家具が制作された当初は今よりさらに,姉妹家具のような1対であったのではなかろうか。(中略)c ヨーロッパ摸倣漆製「山水図小皿JI蒔絵小皿」シリーズのなかにl点,ヨーロッパ摸倣漆製の小皿が混じっている。この皿は日本製「蒔絵小皿」とほぼ同寸,意匠も類似する。縁には鋸歯文か,七宝花菱繋ぎ文を二分したような模様がつく。七宝花菱文の菱の角度が通常と異なり,鋸歯文に近い。見込みには,くねった枝の木々や柳,家屋や岩などが,高蒔絵風に盛り上げなども加えられて加飾されている。ヨーロッパ製と一見してわかる描き方である。ジャパンニングには,上手な作例も見られるが,当作例はあまり上手ではない。しかし,資料として大変,興味を引かれる。インヴエンタリーの記録では「蒔絵小皿jシリーズと連続して番号が付けられている。「蒔絵小
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