鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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皿」を見本にして,ヨーロッパ人の手で制作されたのであろうと推測する。本文第一章で,摸倣漆技法書の著者ボナンニが日本漆器の実物を注意深く観察していたことなどに触れた。この皿は同時代の「蒔絵摸倣の試作品Jであり,収蔵品の「蒔絵小皿」シリーズは,1見本」とされたのであろう。いや,日本漆器収集の目的さえも「試作のための見本用」であったかもしれない。当時の日本漆器のヨーロッパにおける受入れ状況を垣間見るようである。B. 日本,中国漆器1.南蛮漆器桃山■江戸初期(17世紀前期):桃山,江戸初期の典型的な南蛮漆器の様式を持つ輸出漆器2点,1葡萄文南蛮合子J(図11),1観音開扉南蛮箪笥羽目板部分」〔図13,14)。技法は平蒔絵に付描,描割,51っ掻きに螺鋼や絵梨地が加えられる。画面を一杯に埋める意匠は,桜,椿,梅,尾長鳥,飛期する鳥など南蛮様式に繰り返される代表的な意匠の他に葡萄,そして,少し珍しい意匠として木菟,番尾長鳥の春の営みなどで装飾される。南蛮漆器の宗教具についての制作年代はキリスト教禁教令と関連して遅くとも1654年頃までに制作が終了したと解釈できるであろう。17世紀中期の基本資料「フォンデイーメンの箱J,17世紀後半の「蒔絵楯」などの基準資料から推定して,17世紀中期以後には,南蛮螺銅様式から精巧な蒔桧へと輸出漆器の様式が変化するとされる。しかし,宗教と関わらないこの種の南蛮様式の輸出漆器類は一体,何時頃まで制作され続けたのかという問題に対しては,現状で明確な答えを得るのは難しい。よって,個々の収蔵品の制作年代を限定するのは困難でもあるが,新しい様式の輸出漆器は流行や時代の流れを追っていたと判断し,17世紀末,18世紀初めを様式の区切りとして収蔵品の年代を推定。a I葡萄文南蛮合子J(図11)す法詳細身:直径52.3cm内径49.9cm総丈20cm身内深さ19cm大振りの合子で身側面には,全面に葡萄唐草文が描かれる。帽子箱であろうか。用途は不明である。金銀平蒔絵で描かれ,不定形な堺、銅が葡萄葉の所々に加えられる。蓋縁2.1cm身側面厚み1.2cm曲板厚O.48cm蓋:直径54cm,厚み7.9cm,蓋の見入部分:深さ2.5cm厚みO.5cm,-682-

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