鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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口葡萄唐草文の上下に西洋唐草と呼ばれる縁模様が付けられている。蓋は平らで甲盛は無く,蓋左下方の土坂からは,蓋の全面に枝を広げる梅樹と椿樹が大きく金銀平蒔絵で描かれている。葦は特に汚れが著しいため意匠が見難い。節のある太いごつごつした威厳のある椿樹と梅樹の古木の後方には若木らしいほっそりとした柳が伸びている。梅と椿は競うように満開に花を咲かせ,それらの合聞をぬって柳の風にたなびくようなしなやかな枝が芽を吹いている。そして枝や花の聞には2羽の飛鳥と蝶が描かれる。図の周囲を南蛮唐草の細い縁が囲む。平蒔絵に付描,針描,描割,螺銅が加えられている。2羽の飛鳥は一方は金蒔き,もう一方は銀蒔きで付描線や描割,針描線で表現されている。金色の鳥の形は一風,変わっている。南蛮烏と呼んでよいであろうか。合子の内側,底は黒漆一色。底裏に約18.3cm幅の脚跡が3箇所残る。擦り傷が著しい。東慶寺所蔵「葡萄蒔絵聖餅箱Jの同様の葡萄唐草文と比較すると,描線や構図に力強さが欠け,空間が緩慢であるからこの種の南蛮様式が流行した盛期を過ぎてからの制作ではないかという可能性も十分考えられよう。しかし,前述のように,売れ筋を探った商品であった輸出品である点を考慮すると,1600年代の制作と推定してよいのではなかろうか。当品の収蔵番号が現在不明である。筆者の照合する限りでは,1911年のインヴエンタリー418室「中国の間」収蔵品に当品に該当する記録はない。他の場所から移動されて「中国の間」に収蔵されたのであろうかと考える。詳しい追跡調査が必要である。b I観音開扉南蛮箪笥」羽目板:正面扉2枚,左右側面各l枚〔図13,14)計4枚右側面羽目板は中央に横向きの木菟が満開に花を開く梅の樹の枝に止まる。画面を一杯に埋める梅の花の聞には,木菟を伺う様子の小鳥が6羽,飛期したり,枝から木菟を見上げたり様々な姿で描かれている。金銀平蒔絵に付描,描割,針描そして,梅の花型に切られた螺銅が加わる。羽目板周囲は方形螺銅を繋いだ鋸場文で囲む。左側面は,中央に番の尾長鳥が満開の椿樹の枝に留まる。香の尾長鳥は横向きで,雄鳥は雌鳥の後方で羽を広げている。画面一杯に描かれる椿花の聞には,尾長には関心を向けない小鳥が飛期する。右側面の木菟の留まる梅樹聞とは別の春の営みを描いているようである。技法は右側面と同様である。正面扉の羽田板左は吹抜の楼閣が描かれ,屋内の様子が見える。3人の主従であろうか,立ち姿の2人と脆くl人の中国人が金銀蒔絵で描かれる。楼閣2階,即ちl階の屋根上欄干の後に唐子風の子供2人,楼閣の周囲は椋欄,紅葉,桜,椿樹,牡丹なδfo

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