盆ともに黒漆塗りの地で薄肉の高蒔絵で加飾されている。水注には,枝ぶりの良い松の下に宝塔を頂いた屋根をつける床の高い寺院らしい建物が柳などの木々に固まれて見え,下方には屋根付きの山門と塀,右のほうには断崖が覗く。山門の下には石段,さらにその下の階段を登っていく2人の参拝者が杖をもったり,傘を被ったりして描かれている。左上方から注口にかけて空高く旋回するような鳥が四羽,そして柄には唐草文,さらに台の部分には水際に縁台,波や桔梗などが描かれる。断崖と参詣の人のある寺院から「京都清水寺図」と思われる。盆は広い縁と深みがつけられている。縁は華やかな唐草丈で埋められる。独特の唐草文。盆の見込み部分には前方に橋がかかり,橋の右側枝ぶりの良い松の下に社殿,その前に参拝の人物が屈んで拝む姿,さらに奥の遠景には山に固まれて千木の挙がる奥の社殿が見える。橋の左側には休憩所らしい数件の家屋,柳や桐などの樹,そして空高く鳳風が3羽飛期する。千木のある社殿や飛期する鳳風,橋などから住吉図であろう。盆の中央部に梨地の水注受がつく。縁と見込みの間も唐草文が付けられ,丸味のついた水注受けの縁には細かい唐草文が丁寧に付けられている。南蛮漆器の代表的な作例「住吉清水蒔絵螺銅双六盤」にも見られるように,I住吉図と清水図Iの組合せは好んで選ばれた主題であったのであろう。写真で見る限り,当「住吉図盤jは京都博物館カタログ(1995年)I蒔絵J200香に掲載される「清水寺螺銅盤jに類似し特に,縁の「独特な唐草文jは酷似しているように筆者には見える。縁の意匠には,伝統意匠に加えられた「変容」が見られる。蒔絵の仕事が丁寧で格調高く制作されている。盟。非常に大胆な意匠をきっちりした技法で制作されている優品。見込み,身の内外を大胆に金平蒔絵の棋で綾杉形に二分し,片方は梨地,もう片方を黒漆地とする。身内側から見込みにかけて梨地の上に子松,梅花唐草が金平蒔きされ,見込みから身内側は,これまた大変大胆な梨地の量しで流水にしぶきの飛ばされる意匠が施されている。身外側は,区分線を入れずに,一方を梨地,もう一方を黒漆地に綾杉形に二分する。綾杉形で分割される梨地色と黒の背景で,こんもり高くなった土披から枝ぶりの良い古梅と子松が生え,金銀蒔きで描かれる梅花をつけた枝は左右に大きく伸ぴて,黒地の背景から梨地の部分へず、っと伸びて枝を広げている。きっちり整頓された描割線,付描線,幽かな薄肉をつけて表現される梅花弁のふくらみ,2種の蒔絵粉によるb 片身替蒔絵盟:身の周囲をぐるりと手かけがまわされている伝統的な形の手水-685-
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