鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
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⑦ アルベルト・ジャコメッティにおける後期作品展開の研究研究者:法政大学講師武田昭彦現在のアルベルト・ジャコメッテイ研究において,各国の研究者が問題にし,しかし暖味なのは,ジャコメッティの晩年,つまり一般には1959年から彼が亡くなった1966年までの時期についてである。しかし,矢内原伊作がモデルをつとめた1956年からの作品も問題にしなければならないと私は考える。一般には,それを「危機J,もっと具体的には「ヤナイハラ・クライシスjと呼ばれている。以下,信頼できる基本的文献からジャコメツテイの晩年の作品に対する解釈を引き出し,私の持つ独自の資料を参照しながらf食言すを加えてみた。まず諸文献中では最も広範な資料を用い,細かい分析をして,ジャコメッティ研究において今も圧倒的な影響を及ぼしているラインホルト・ホールの研究書--ReIn-hold Hohl, Alberto Giacometti, Verlag Gerd Haりe,1971一ーを検討しよう。ホールはジヤコメッテイの作品展開を次のように分類した。1) 1914-1919-1924年:青年期の作品一一一アカデミックなテクニック。2) 1925-1930-1934年:様式化された彫像一一彫刻オブジェ。① ポストキュピスム的様式の彫像(1925-1929)② 彫刻一一シュルレアリスム的オブジェ(1930-1932)③神話のためのメタファー(1932-1934)3) 1935-1940-1946年:芸術,レアリテと実存との出会い。①新たな始まり(1935-1940)② レアリテの現象的再現としての芸術作品(1940-1946)4) 1947-1951年:物質も重さもない様式の実現。5) 1952-1956-1958-1965年:自立したレアリテとしての芸術作品。① 想像的な空間におけるレアリテの悪魔払いとしての芸術作品(1952-1956/1958)② 決定的な危機(1956-1958)-61

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