鹿島美術研究 年報第18号別冊(2001)
88/716

してあった社寺も少なくないが,限られた日程の中でかなりの制約を受けていただろう。特に,正倉院の調査対象は膨大なものであったためであろうか,1奈良の筋道」の記載は淡々とした資料目録が記載されている。その他の社寺宝物調査の傾向を考えるために,唐招提寺の記載を掲げてみたい。唐招提寺へ参ケ1),金堂ハ聖武帝建立と寺ニハ伝へ候へ共,奈良朝ノ朝集殿也,講ノ間違也,舎利殿,礼堂,太鼓堂是皆同帝ノ建立開山勧進袈裟法華経大悲筆唐招提寺額大般若経一聖武帝筆御常経老母六英経一光明子筆大般若経一吉備大臣筆此寺ノ建立ハ一目歴然トシテ古キコトワカル,何レノ人と云へ共,此寺ニ口来レハ古ヘハ思ワヌハ無シ,次金堂仏金箔厚シ,光り有り,純金ノ延タルニ見ユ(1奈良の筋道J)一唐招提寺へ参り,金堂ハ聖武帝ノ御建立,舎利殿是又同し,前ニ札堂是又同し,講堂,奈良ノ都ノ時ノ朝集殿ノ建物,太鼓堂二段是又聖武ノ時ノ建物,薬師寺東院殿ハ舎人親王の建立の由,何れニ世珍敷古屋也,薬師寺仏具且四方の文字天平ノ彫り文有り,碑文ノ口明ノ文,其文字ノサマ実ニ古クシテ,精巧ナリ寄也ー唐招提寺四ツ同ニ字ヲ並テ,八す位ニ横木ノ板ニホレリ,孝謙天皇の筆と云へり一一切経の字かく五す位ニ而,白地ニ墨ニ市かけり,道風の筆,聖武其外古経有りー右建物一日シテ古シ,金堂ハ仏ノ金箔厚シテ,其色実ニ光り有りテ,純金ノ延ノ様ニ見ユ(1社寺宝物巡回記J)仏像に関する記述が少なく,宝物,什物が対象となっていることがわかる。同様に,他の社寺についても同様の傾向が看取される。明治4年5月の古器旧物保存の布告においても,1古仏像並仏具ノ部」として,仏像は保存すべき対象に挙げられているが,調査対象として少ない傾向に感じるのはあまりに周知の「文化財jだからであろうか,あるいは信仰の対象となっている宝物が調査の対象にはなっていないと考えるべきであろうか。あるいは廃仏段釈の影響を考えるべきなのだろうか。その他の古器旧金剛経開山筆一切経蔵額文字白シ道風筆孝謙天皇震翰字八寸位一孝謙帝筆78

元のページ  ../index.html#88

このブックを見る