⑨ 室町・桃山時代における男性の小袖型服飾に見る年齢による差異研究者:大和文華館学芸員津田和人はじめに本研究は,室町・桃山時代の小袖型服飾(小袖を典型とする同類形態の服飾)の遺品に対する制作時に還元した服飾としての位置づけや作品理解,つまり,当時いかなるものとして評価されるべきものであったかを知ること,それに向けての基礎的な情報の一つを提供することを目指している。服飾の特徴は時代・身分・性別など様々な要因によって具現されるが,年齢も少なからぬ役割を果たしていよう。このような立場に基づき,小袖型服飾のうち小袖・袷・雌子・肌・胴服(羽織)を対象とし,遺品や情報に恵まれた男性用に照準を定め,年齢による差異という観点からの検討を試みたい。本研究で行う作業はまた,小袖の成熟度についての問題提起へと展開し得るものとも思われる。室町・桃山時代は服飾史上,大袖中心時代から小袖中心時代への転換期にあたる。小袖型服飾は老若男女とも着用するものであり,従って,年齢と性による区別が顕在化したとき,成熟度はひとまず最終段階に入ったとみることが,或いは可能であるかも知れないためである。少年の小袖型服飾に関しては,最近,森理恵氏が一連の論考を発表されたが(注1)疑問が無いわけではないので,私なりに研究を進めてゆく。なお,本報告に於ける服飾の漢字表記は現在の慣行によるものである。利用頻度の高いいわゆる故実書は検討が不可避なものであろう。そこで,正続『群書類従』武家部所収の諸書と雑部所収の『海人藻芥Jを調査範囲として,男性の年齢による規定に関する記述を抜き出し整理を試みた(表1)。この表lについて説明すべきこと,及び,分析されることは多いが,紙数の都合上,表の提示を第一の目的として簡潔に済ませ,詳述は後日に譲りたい。歴史学等の成果に学び(注2),年齢層の区分を,7 ~12歳=幼(幼児期),13~15 歳=少(少年期),16~25…40歳=若(若者期),26…41歳~=大(大人期),とまず設定した。そして,これらの下位に,特に必要な場合にのみ使う細分として,16~ 18… 集団によって上限ないし下限にかなりの振幅があり,それを反映させたものである。なお,具体的な年齢の記述が「十四・十五」などとあったり,諸書相互の調整をはか1.衣材・意匠に関する問題故実書の整理25歳=青(青年期),26…30~40歳=中(中年期)を設定した。「…」を用いた表記は,-81-
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