これまでに中原地方において流行していた弥軌仏の下生信仰と関係するものと考えられる。麦積山第10号碑像に表された釈迦多宝仏+弥勅+釈迦仏の組合せは,北貌晩期から陪初期の作品に影響を及ぼした(注5)。麦積山第10号碑像では,巾軸線の両側に本生図と仏伝図が数多く表されるが,それらの図像は時間の経緯にしたがって配置されたものではない。実はこの碑像の図像選択と具体的な構成は,法華経の教義と密接に関連していると考えられる。以下は仏伝場面の展開を手掛りにして,まず碑像の中層,次に上層と下層の順に論述したい。三巾層両側の説話図とその相互関連1,定光仏授記本生図碑像の中層〔岡4J左側の下部に定光仏授記本生図があり,画面に散華,布髪,ZH中飛朔の三景が異時同図的に表されている。説話内容の選択と構図は雲岡第10窟前室の東壁腰壁の表現(注6)を継承しているが,雲岡第10窟の作例は購華,散華,布髪,空中飛期の四景が表されており,ここでは購華のエピソードが省略されている。多数の漢訳仏伝経典では釈迦の伝記を述べる前に,釈迦の直接の前生である儒童菩薩の説話,すなわち定光仏授記本生をも記している。定光仏授記本生は本生と仏伝を繋ぐ極めて重要なエピソードとしている。麦積山第10号碑像における中層両側の図像は,定光仏授記本生を含む仏伝記を主眼としたといえる。2,乗象入胎・誕生・九龍濯水中層右側の上部に乗象入胎,左側の上部の左に誕生,右に九龍濯水という誕生前後の一連の仏伝図が表されている。乗象入胎の場面は菩薩が象輿に乗っており,象の頚に駅者も乗っている。この場面と類似する表現は最初雲岡北貌晩期の第37窟の東壁左上部(注7)に見られ,その場面では菩薩が光背を付ける太子を抱いて象に乗って降りる。麦積山第10号碑像のこの場面の象に乗る菩薩の表現は雲間第37窟のものを継承するが,抱かれた太子および夢を見る摩耶夫人が略されている。右側の乗象入胎場面に対して,左側に誕生場面と九龍濯水場面が|百l一区画に配され,異時同図の表現となっている。誕生場面では摩耶夫人が左手で木の枝を執り,太子が夫人の左脇から誕生することが表され,夫人の前で帝釈天が条吊で受け取り,後ろで女性が夫人を支えている。これは左脇からの誕生の表現で,経典すべてに記される右-4-
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