てJを原型としたポリツイアーノの『馬上試合の為の詩篇J(注33)にも見られるが,ポリツィアーノの詩とは異なり,rアドーネ』のアモル達は,単に,そこに居合わせるの石棺浮彫をその着想源として指摘している(注29)。さらに遡れば,腕を頭の後ろに回すニンフの形は,古代アリアドネ像に起源を求められる(注30)。以上,フ。ツサンの〈マルスとヴィーナス〉を構成する個々の要素について,古代の着想源を指摘した。ところで,プッサンの伝記を書いたパッセリは,詩人マリーノが,詩的な想像力から引き出したモチーフをプッサンに提供し,プッサンは,それを自身の奇想(caprice)のために用いたと語っている(注31)。本作品にも,古代の形を用いた部分に加え,マリーノに由来すると思われるモチーフや表現を見い出すことができる。マリーノは,オウイデイウスの『変身物語』に登場するアドニスとヴィーナスの愛の物語を軸とした詩篇『アドーネjを1623年にパリで出版した。その第13歌に,烏になったアドニスがマルスとヴィーナスの密会を目撃する場面がある。マリーノの詩では,マルスの盾(scudo)がヴィーナスの聖木ミルト(mirto)の枝に掛けられ,闘いの道具という役目を失って,愛の喜びを増幅させる鏡(specchio)に変貌させられている(注32)。プッサンの絵でも,マルスの照り輝く鋼の盾は,2人のプットの手で鏡のように恋人達に向けられており,プッサンがマリーノの詩の表現を視覚的に表していることがわかる〔図7)0rアドーネ』では,恋人達の上を通り過ぎたゼフュロスが,鋼の盾と兜の羽飾り(cimierde l'elmo)を震わせ,愛の行為の伴奏を奏でる楽器に変貌させる(注32bis)。プッサンの作品でも,プットによって脱がされたマルスの兜の上で赤い羽飾りが揺れ〔図7),戦争神の一番の装飾,恐怖と威嚇の象徴が愛に降伏し,愛の喜びが勝利を収めたことを示している。『アドーネ』のマルスとヴィーナスの密会の場面には多くのアモル(プット)達が登場する。この場面に多くのアモルを配するのは,ルクレテイウスの『物の本質についだけでなく,マルスの武具に思い思いの愉快な悪戯をしかけて玩ぴ,それによってヴィーナスの勝利を賛美している(注34)0rアドーネjのアモル達の描写と,プッサンのプット達の聞には一対ーの対応は認められない。けれども,プッサンは,プット達を恋人達を丸く取り囲むようにリズミカルに配置することで,マリーノの詩のアモル3 マリーノの詩法とプッサンとの関係
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