鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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結語プッサンにおける古代受容プッサンは〈マルスとヴィーナス〉の制作にあたり,幾つかの古代の作例を参照した。しかし,作品を制作するにあたって,それを猿真似的に模倣したのではないし,古代の造形言語を完全に吸収した上でそれが自然に表出されたとも言えない。恰も洗練された収集家のように,プッサンはテーマに相応しい古代作品を慎重に選択し,それらを-s_ぱらぱらにした後,新しい「配置」の下に再び、結合させたのである。この作品では,マルスとヴィーナスの2人,プット達,河の神とニンフを古代美術から借用している。プットと河の神とニンフは,作品に「甘美jな性格を与えるために選択され,作品に盛り込まれた。他の付随的なモチーフも,マリーノの作品に対応して選択された。プッサンは,これらの要素を,左に偏った構図の中に巧みに配置しながら,画面全体を統一的なリズムを持つ緩やかな動勢の中に置いた。そして,これらの配置が生み出す絵画的比倫(コンチェット)によって,作品に新たなテーマを与えたのである。この場面は,ボッティチェリ以来の伝統に連なる愛(ヴィーナス)が戦争(マルス)を支配した幸福と平和に満ちた時聞を表している。それに加えて,プッサンは,修辞学(ヴィーナス),音楽(マルス),そしてアモルにより創造性を授けられた絵画を,アモル(プット)達に囲まれ,平和に満ちた(マルスとヴィーナスの結合による)調和の中に捉えたのである。この巧みな絵画的比輸によってプッサンが新たに生み出したテーマは,創造性をもたらす愛に支配された諸芸術の世界と,その勝利への賛歌と言えるだろう。その主要な要素に古代美術を用いる手法は,マリーノの作詩法を絵画に適用したものである。マリーノは「適切な場所に配され,巧みに配置された,古代彫刻と破壊された大理石の遺跡は,新しい建造物に精華と荘厳さを増大させる」と語り,古代のソースの断片を新しい意味の結び付きに再構成することを若い詩人達に勧めている(注46)。プッサンはそれを絵画において実践したのである。以上,プッサンが,古代美術を絵画的比輸(コンチェット)に利用する手法を分析してきた。これは,マリーノの作詩法に基づくもので,プッサンの古代受容に見られる顕著な特徴のひとつであると言うことができる。マリーノに一一ひいてはタッソに結び付くこの手法は,さらに複雑さを増しながら,プッサン最晩年の「ダフネに恋するアポロj(1664年,ルーヴル美術館)に至るまで,引き継がれていくことになる(注47)。-154-

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