⑮ 漢代石碑の形式と装飾意匠に関する研究研究者:早稲田大学文学研究科博士後期課程漬田瑞美研究報告:本研究は,従来等閑視されていた漢代の石碑(以下,漢碑)を美術史的視点から考察することを目的としている。我々が想像するような所謂文字が刻された板状の碑が現れるのは後漢時代になってからであるが,すでにこの段階にして碑の形式は定まっている上,碑面上には装飾意匠が施されており,i莫碑は漢代の石刻美術の一分野を占めるといっても過言でない。武栄碑(永康元年.167)の碑文中にも「刊石勤銘,垂示無窮jとあるように,碑は,功績をたたえ録して後世に伝えるために洞廟の前や墳墓の前に立てられた。碑文の内容のみならず,漢碑が当時或いは後世の人々に与えた視覚的な影響は少なくなかったと考えられ,また碑の形状や施された装飾にも何らかの意味があったはずで、あろう。しかしながら碑はあくまで碑文が重要とされ,収集される資料は拓本などによる文字資料が中心となっており,漢碑そのものの形式や装飾意匠を知る機会はこれまで少なかったと言っていい。そこで,従来の資料不足を補うため,今回,計27基の漢碑の実地調査を行い,その観察結果および、諸資料に拠って後掲(表)を作成した。以下,これに基づきながら漢碑の形式および装飾意匠などの概要を述べた上で,それらの形式や個々の装飾意匠の意味について考察し,漢代における碑刻の理解につとめてみたい。石碑の結構は,碑文の刻される板状の「碑身Jと,台座の「碑扶」からなる。額字が刻される碑身上部を「碑首」といい,碑身下部には柄がつくられ碑扶の柄穴にはめこむ。漢碑の碑身の形状は,碑首が三角形〔三角首J(注1)と半円形〔半円首〕の2種に大別できるが,中には直方体の漢碑もある〔図1J 0 (表)には直方体の碑,三角首碑,半円首碑に分け,それぞれ年代順に配列している。直方体のものは,1蓑安碑,2衰倣碑,3曹全碑,4乙瑛碑がある。前3碑は素文であるが,1嚢安碑と2哀敵碑は中央やや上部に「穿」と呼ばれる直径10数センチメートル程の円形孔が貫通している。4乙瑛碑の碑両側には葉形を左右に付ける上端に鳥頭の知きを象る波状文を浮彫する〔図2J。三角首のものは,5北海相景君碑〔図3J, 6武斑碑,7李孟初神洞碑,8鄭固碑,
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