鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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注記述された方便説法の表現である。『妙法蓮華経』では上述した説話の内容は詳しく述べられていないが,提示的に記されている。下層において対称的に配された初転法輪と維摩文殊は,r妙法蓮華経』巻21警11食品jに記される,釈迦仏が昔声聞人に小乗法を説き,現在はそれらの人々に大乗法を説く表現である〔図7J。『妙法蓮華経J巻11方便品J(r大正蔵』第9巻8頁上)には,諸仏は衆生に仏の智慧を得させるために世間に出て唯一の仏乗を説き,声聞乗と縁覚乗というものはないということが説かれている。一切十方および過去現在未来の三世諸仏は,みな一切の衆生を成仏させるために無数の方式および様々な因縁警職で衆生に説法する。本生・因縁・仏伝を含む小乗の九部経を衆生に随順して説き,大乗に入るのが根本であることが記されている(注15)。また,巻51如来寿量品JO大正蔵』第9巻42頁下)には,如来は衆生を解脱させるために種々の経典を説く。衆生に応じて自己或いは他人の出来事を説き,衆生に善根を植えて成仏させることが述べられている。仏陀の自己の出来事は本生・仏伝説話であり,他人の出来事は因縁説話に当たる。麦積山第10号碑像の両側における説話などの図像はまさに法華経に説かれる衆生を成仏の道に渡らせるために,組み込まれた方便説法の表現である。もともと小乗的な説話図を借用して法華経の思想、を表すのは,北朝期法華経美術の特徴を示している。(1) 文化部社会文化事業管理局『麦積山石窟』文物出版社,1954年,図版123~1280 名取洋之助『麦積山石窟』岩波書店,1957年,図版800Michael sullivan, The Cave Temples of Maichishan, London, 1969. PL. 58~63. r中華五千年文物集刊・麦積山石窟J中華五千年文物集刊編集委員会,1984年,図版115。史岩『中国彫塑史図録』上海人民出版社,1987年,図版6890r中国美術全集・麦積山石窟彫塑』人民美術出版社,1988年,図版51~54。(2) 李治国・丁明夷「第38窟の窟形式および彫刻塞術についてH中国石窟・雲間石窟二J平凡社,1990年。また,水野清一氏・長贋敏雄氏は多数の仏伝場面を確認した(r雲岡石窟j西端諸洞本文,京都大学人文科学研究所,1955年,55・56頁)が,他作例が見られない鷲鳥怖阿難入定因縁図は,通一氏・董玉祥氏によって判明された(1雲岡第50窟の造像喜市j(rJ r現代f邦学j1963年第2期)。(3) 470年代頃の雲岡第7・8双窟と第9・10双窟および490年前後の雲岡第6窟に9

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