20) 至る所が,トランベットの音と甲胃や槍のガチャガチャぶつかる騒音で溢れていた。しかし,彼はかつてこのような素敵な出来事を夢で見たという。もし,彼の見たものが現実になるとしたら,確かに彼は最も幸せな男であろう。J(注17)この報告では,ローゼンタールが指摘しているように「夢が現実になった」あるいは「現実が夢で予言された」超現実的な出来事が重要である。デユーラーは1522年に,「愉快な」夢が現実化するという体験を告白していた。そのカウンターパートのように,I不吉な」夢として現れた洪水が今度は現実化してしまうのではないかという恐怖が1525年のテゃユーラーに実感されたことであろう。不育な星位によって混乱させられた社会が,彼の洪水の夢が現実化することによって,ついに悲劇的結末を迎えてしまう黙示録的恐怖。それはまさに小冊子で予言されていたごとくに,彼の夢の中で生々しく視覚化されたかに思われたのである(注18)。この手紙に関してマッシングは,重要な指摘をした。それは,ピルクハイマーが最初の一行目でルキアヌスを引き合いに出してデューラーと比較したことである。ピルクハイマーはちょうどこの1522年に,)レキアヌスのラテン語訳を出版する。おそらく,長く関わっていた翻訳作業のために彼の頭のなかにはルキアヌスの文章が鮮明に蘇ったのであろう。この書は,何人かの予言者が自分の願いを表明し,彼らの夢想を対話形式で記述するものだ。予言者の一人リュキヌスは,いかにして彼が世界を武力で征服するかを語り,話を聞く者が皆それを受けてパピロンの城壁の外にある平野で闘う情景を夢想する。そして次の者が話をさらに膨らませていく。サミプスは,リュキヌスの話に続けて軍勢の猛攻撃を次のように語った(注19)。「…トランペッターが合図を出し戦闘の雄叫び、があがったら,君の槍を君の盾にぶつけて凄まじい音をおこせ。力をみなぎらせ,そして奴らと正面からぶつかれ!…J(注トランベット,槍や盾がぶつかりあう音は,まさにビルクハイマーとデユーラーがニュルンベルクの広場で見た光景の雰囲気と一致している。おそらくこの光景を眺めながらピルクハイマーは自分が訳したルキアヌスの夢想場面をデューラーと語り合ったであろう。その思い出を記録するため,ピルクハイマーは全く個人的感情からルキアヌスの序に献辞書簡として収録したに違いない(注21)。
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