⑩ 六道絵研究一一聖衆来迎寺所蔵「六道絵jに関する仏教思想史的アプ口ーチ一一研究者:ランビ、エンテ修復芸術学院非常勤講師井上聡美はじめに滋賀県聖衆来迎寺所蔵の国宝「六道絵J15幅(以下聖衆来迎寺本,本作と略記)には,修理銘を伴う旧軸木が付随して伝来している(注1)。この修理銘に記された内容から,本作が13世紀の何れかの時期に比叡山横川の霊山院周辺で制作された可能性について,先行研究において既に指摘されている(注2)。しかし,制作背景に関するさらに具体的な研究は未だ十分ではない。稿者は現在l.作品の検討,2.関連史料の検討という2種類の作業を通して,本作の制作背景となるく思想・場・人>,に関する考察に取り組んでいるが,本稿はその中間報告である。l.作品の検討-15幅全体の構成に看取できる信仰の形一〈現状確認〉まず、本作の作品調査を行った上での所見について,概略を述べるにとどめる(注3)。本作は一副ー鋪の絹本着色画で,現状は掛幅装である。法量はいずれも縦155.5cm×横68cm程度で15幅間で顕著な違いはない。15幅全ての画面上方に,1枚ないし2枚の色紙形を配し,主に『往生要集jからの引用文を墨書する(注4)。補絹や,周囲の切りつめが,若干確認されるものの,画面を広範囲に損なうものではなく,鎌倉時代の仏画としては,保存状態は良好で、ある。補彩や補筆に関しても大きな改変の痕は見出せない。本作に関しては,聖衆来迎寺の寺伝に「もとは浄土の図を含む三十幅であった」と伝わり,現状の15幅が,当初からの揃いであるのか否かという点が問題となろう。しかし本図と共に伝来する旧軸木の修理銘では,正和2年(1313)第l回目の修理の時点において既に15幅と記されており,制作当初から15幅でひと揃いであった可能性が高い。本稿ではこれを前提に全体構成に関する考察を進める。<15幅の全体構成〉ここでは,各幅に描かれた内容と,色紙形の位置で分類することによって,15幅全体の構成意図を顕在化することを試みた。色紙形の位置を考慮したのは,この15幅を-232
元のページ ../index.html#241